2003年08月02日(土) |
給前を支えた2年生捕手 〜横浜商大10年ぶりの優勝〜 |
10年ぶりに夏の神奈川を制した横浜商大。 背番号13を着けて、7試合すべてにフル出場したのが2年生捕手・宮本憲人だ。スローイングもキャッチングも抜群にうまいとは言えない……。だが、エース給前の良さを存分に引き出した。
夏の大会前まではストレートで押しまくるのが給前のイメージだったが、この夏は違った。とくに準決勝の桐光学園戦から、緩いカーブを交え、投球スタイルを変えてきた。 優勝を決めた決勝戦。キーマンと見られた1番荒波、4番黒木に対しては、外角のカーブを多く配球し、打ち気にはやる二人を翻弄した。 圧巻だったのが最終回の攻め。西江、吉田斉(ともに代打)に対し、7球連続で変化球を要求し、凡打に仕留めた。 それでも、最後のバッター荒波に対しては給前らしさが見えた。カウント1−0から外角のカーブを投げ、空振り。2−0と追い込む。今日の投球スタイルでいけば、最後は変化球かと思ったが、そこはやはり給前。2−0からストレートを3球続け、最後は外角ストレートで空振り三振に仕留めた。最後の最後はやはり給前の持ち味であるストレートだった。 宮本は「最後は絶対にストレートと決めていました」と試合後、笑顔で言った。
宮本がキャッチャーを始めたのは、高校2年の春から。それまで主にファースト、サードを守っていたが、突然のコンバートだった。 「いきなり、監督にキャッチャーやれ! と言われたんですよ。最初は戸惑いばかりでした」と宮本は苦笑いを浮かべる。 「自分のどこが良くて、キャッチャーにコンバートされたか、未だに分かりません……」 キャッチャーの経験は、「少年野球でちょっとだけある」程度だったという。 給前のストレートを初めて受けたとき、「あまりに速すぎて、ちゃんと捕れなかった」と昨年の春のことを振り返った。 給前に宮本のことを聞くと、想像とは違う答えが返ってきた。 「2年生なんで、自分の言いたいことが何でも言えるし、やりやすい」 「リードがうまい」「肩がいい」「視野が広い」など……、宮本の能力を誉める言葉を想像していたが、違った。でも、自分が「やりやすい」キャッチャーは、能力以上に大事なのかもしれない。
宮本に、この給前の言葉を伝えると、少し言いづらそうに、小さな声で言った。 「給前さんは3年生なんで、ぼくは正直やりにくいところもあります……」 給前は「やりやすい」と言い、宮本は「やりにくい」と言う。おかしな関係である。
金沢監督は宮本を起用し続けたことについてこう説明する。 「給前は宮本と組むと、やりやすいんでしょうね。6月の練習試合から、二人でやらせてきて、相性の良さを感じていました」 「やりにくい」と考えているのは下級生の宮本だけのようだ。
10年前、商大は川崎球場で行われた決勝で横浜を下し優勝を決めた。小学生だった宮本は、商大野球部出身の父親に連れられ、川崎球場のスタンドにいた。 「その頃、どんなふうに思った?」と訊くと、 「小学生なんで、ただ試合を見て、商大が優勝したな、くらいにしか思ってませんでしたね。あの試合があったから、商大に入ろうと思ったわけでもないですし……」と宮本。 それでも、球場で10年前の優勝を見て、10年後には自分が選手として優勝を味わうなんて、カッコ良すぎる……。
「甲子園では給前さんをしっかりとリードして、勝ちたい」と抱負を話す。 商大の試合を見ていれば気づくが、宮本のサインに対して、給前が首を振ることが結構ある。 「給前さんの方が経験があるので、その点は全然気にしてないです。首を振ってもらうことで、自分の勉強にもなりますので」 素直な2年生である。
神奈川大会終了後、甲子園登録メンバーが発表された。 宮本は「13」から、レギュラー番号の「2」に昇格していた。
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