2003年02月13日(木) |
筑川利希也、復活のマウンドへ(1) 穏やかな表情 |
昨年の11月16日、半年振りに会った筑川は、ブレザーを着ていた。ベンチ外の応援部隊として、神宮球場に来ていた。
明治神宮大会2回戦で、東海大は九州国際大に0−1で惜敗した。エース久保裕也が初回に失った1点を、打線が取り返すことができず、初戦で姿を消した。敗戦後、久保は涙を流し続けた。右腕で何度もぬぐっても、涙は溢れ出た。久保を囲んだ報道陣が、取材を行うのを躊躇ったほどだった。 久保はバスに乗るため、球場の外へ出ると、父の姿を見つけた。2、3分もの間、久保は父の胸の中で泣き続けていた。
その様子を筑川は5メートルほど後ろで眺めていた。 「来年、久保の分も頑張らないとね」と声を掛けた。 「来年は無理ですよ。4年まで投げられないです」 そう言葉を返した筑川だが、表情に暗さはなかった。穏やかな表情を浮かべていた。でもそれは、試合に出場できない選手の表情に、勝負を争う舞台に立てない選手の表情に思えた。
ふたりで話しをしていると、女子校生らしき二人組が筑川に声を掛けた。 「筑川くん、一緒に写真撮ってください」 肯定も否定の意も見せず、筑川はカメラに収まった。 「相変わらず、人気あるね」 そう訊くと、筑川の穏やかだった表情が崩れた。 「もう、昔のことはいい加減忘れて欲しいですよ」
センバツの優勝から、もう3年が経とうとしている。
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