今秋の関東大会。浦和学院の試合を全試合見た。 1回戦から決勝までの4試合。ショートとセカンドが、常に欠かさずに行っていた動きがあった。投球後、キャッチャーがピッチャーに返球するボールに対して、ショートとセカンドがピッチャーの後ろへカバーに入る。ランナーがいるときだけではない。塁上にランナーがいないときでも、必ずカバーに動いていた。
カバーに入るのは、キャッチャーからピッチャーへの返球が暴投となったときに、走者の進塁を防ぐ意味がある。つまり、走者がいないときに、いくらキャッチャーが暴投しても、試合の勝敗には何の影響もないことになる。それでも、浦学の二遊間を守るふたりは、全ての返球に対して、カバーに入っていた。
都立高校の監督にこの話をした。 「ウチの学校はカバー入らないんだよね。ランナーがいないときはもちろん、ランナーがいるときも入らないんだよ」 この都立高校は、初戦敗退が当たり前、たまに一勝を挙げるぐらいの実力しか持っていない。監督は、「本当はカバーに入って欲しいんだけど、まだ教えられるレベルまで言っていない」と苦笑いを浮かべていた。 「でもね……」、と興味深い話をしてくれた。 「この学校に来て7年目なんだけど、7年間試合をやってきて、キャッチャーの返球がそれて、ランナーが進塁したことって、一度もないんだよ。本当は、一度でも返球ミスが起きたときに、カバーに入る大事さを教えようと思っているんだよ。でもさ、7年間、一度もないんだから。一度もだよ」
1年間でどのぐらい見られるプレーなのだろうか。 「1チームで1年に1回あるぐらいですかね」と監督に訊くと、「いや、1年に1回もないと思うよ」と答えが返ってきた。 「だけど、そのわずかな確率のプレーを、ランナーがいなくてもやる浦学というのは、やっぱりすごいと思うよ。7年間起きてなくても、8年目の大事な試合でそのミスがでるかもしれないしね」 イニングが始まる前、守備側のチームは必ずボール回しをする。キャッチャーからの送球を捕ったセカンド(あるいはショート)が、まずはサードに送る。次いでショート、セカンド、ファーストとボールは送られる。このとき外野手は、自分の定位置につき、手持ちぶさたにしていることが多い。 だが、浦学は違った。サードがショートに送球するときは、センターがその延長線上にカバーに入る。ショートがセカンドに送る場合は、ライトがセカンドの後ろでカバーをしていた。 ランナーがいないどころか、まだプレーボールもかかっていない状況でのことである。
都立の監督は言う。 「勝敗に関係がなくても、そこまで徹底できる。野球に対して、自分たちがここまでやっているという気持ちが大事なんだよ。その気持ちが、最後の最後、一点を争う場面で勝敗を分けたりするんじゃないかな」
先週の日曜日、東林中グラウンドで東林中対修徳中の練習試合を見た。 修徳中が守りについていたとき、一塁後方へのファールフライが4本ほどあった。ファースト、セカンド、ライトが懸命に追いかけても、届かないファール。ちょうど、3人の中間に落ちるようなファールである。 3人は届かないと分かっていながら、頭からダイビングキャッチを試みた。試みたといっても、120%捕ることはできないボールである。それでも、一塁後方へファールフライが飛ぶと必ずダイビングをした。
私は浦学も修徳中も、「だから強い」とは思わない。 でも、野球にかける気持ちは伝わってくる。
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