早慶戦、第1戦。試合開始は13時。私は12時20分に銀座線の外苑前駅に着いた。地下通路を抜けて、地上に出る。神宮までは徒歩約10分。途中、秩父宮ラグビー場があるため、ラグビーの試合が重なるときは、ラグビーファンと野球ファンが同じ道を歩くことになる。でも、その中の多くはラグビーファンだ。秩父宮を過ぎれば、歩くことに何の苦もなくなる。神宮を目指す人は少ない。 今日は違った。「あれ? 今日ラグビーあったっけ?」と思うぐらい、外苑前駅から神宮球場に行く道がごったがえしていた。通り道のコンビニは大入り満員。大学生、年配の方、老若男女問わず、全ての人の足が神宮に向かっていた。神宮のチケット売り場には長蛇の列。4つある窓口全てが埋まっていた。
私にとって生まれて2度目の早慶戦。昨秋は両校応援団のエールの交換に感動したものの、お客さんから感じる熱気は今日ほどではなかった。 球場内の階段を上り、内野スタンドに出る。私には信じられない光景が、目の前に広がっていた。試合開始30分前だというのに、外野に目をやると、立ち見が出るほどの超満員。内野席もぎっしりと詰まり、応援席はもはや一睡の余地もないまでに膨れ上がっていた。「これが伝統の早慶戦か」と思った。
今日の試合を迎えるまで、早大が勝ち点3(7勝2敗1分)で首位。対する慶大は勝ち点2(5勝4敗1分)で5位。順位だけを見れば離れているが、今日からの早慶2連戦に慶大が連勝すれば、早大と勝ち点で並び、勝ち数負け数も並ぶことになる。6大学連盟は「慶大が連勝した場合は6月3日に早大ー慶大の優勝決定戦を行います」と早々と発表していた。最後の最後の早慶戦で、6大学の優勝が決まる。
試合開始前、球場は異様な盛り上がりを見せていた。学生応援団は内野の応援席だけでは入りきれず、外野席にも陣取っていた。1塁側〜ライトまでが早大、3塁側〜レフトまでが慶大。いつもなら応援席だけで歌われる校歌が、内外野スタンド一体となって歌われていた。スタンドでは何度も何度もウェーブが起こっていた。
試合は1球のストライク、ひとつの安打に大歓声が起こった。プロ野球とは全く違う盛り上がり方。ビールを飲んで騒ぎまくる学生もいれば、サークルの行事のひとつなのか、おにぎりやおつまみ持参で球場に足を運んでいる学生もいた。もちろん、両校OB・OG、私みたいなイチ野球ファンもいる。それぞれの観戦スタイルで早慶戦を見た。
帰宅後、連盟のHPを覗くと、何と今日の観衆は4万2千人と書かれていた。ヤクルトー巨人よりも、間違いなく入っていた。
早慶戦。両校のスターティングメンバーを見ると、慶大で関東出身なのは3番の小野(慶応義塾)と先発の長田(鎌倉学園)だけ。早大は3番鳥谷(聖望学園)、7番由田、8番島原(ともに桐蔭学園)の3人。両校合わせて18人中、関東出身は5人しかいない。それに対し、関西より西出身の選手が10人もいる。特に、智弁和歌山の00年夏の優勝メンバーが3人もスタメンに名を連ねていたのが印象的だった。
あれだけの大観衆の前で、あれだけの熱気の中で、野球をやれることが羨ましい。大学野球界では早慶の選手だけに与えられる名誉と言える。もっと言えば、プロ野球には早慶戦のような熱気は存在しない。
生まれ変われるのなら、早慶戦の熱気を選手として味わいたいと思った。
|