加藤のメモ的日記
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2023年08月17日(木) 暗い孤独死と、明るい在宅死

「部屋中に積みあがったゴミは、なだらかに傾斜していることが多いのですが、その中に丸いくぼみがあると、ここで寝ていたんだなとわかります。大量のコンビニ弁当の容器や栄養ドリンクのビン、家族写真などの遺品が残されている現場もある。奥さんを亡くした後、夫が自炊できずに不摂生で身体を壊し、ギリギリの状態で生きていた様子も伝わってきます」

こう語るのは数々の孤独死の現場を取材してきたノンフィクション作家の菅野久美子さんだ。清掃業者に交じって部屋にはいると、その人がどんな最期を遂げたかが見えてくるという。「体調の変化もあって、自力でふろに入れなくなる人も多いです。特に男性は周囲の人間関係から孤立しがちで、『なんかあの人、辛そうだな』と気にかけてくれる人が少ない。自分自身のケアを放棄してしまう。『セルフネグレクト』状態になった挙句、トイレにも行けなくなって、焼酎のボトルに尿をしていた人もいました」(菅野氏)

孤独死の現場と聞くと、古いアパートを想像する人もいるが、ごく普通の3LDKの分譲マンションで起きることもある。全国で年間27.000人が孤独死をしているという統計も発表されている。一人で幸せに死ぬことはおろか、健康な生活を続けることもできず、苦しみながら死んでいく。連れ合いに旅立たれた後、そんな「暗い孤独死」への道をたどってしまう人は少なくないのだ。

一方、同じように家で亡くなったとしても、最後の最後まで幸せな時間を過ごした人もいる。日本看取り士会会長の柴田久美子氏は語る。「末期がんを抱えながら、一人暮らしを続けていた入江正信さん(仮名)の体調に変化が訪れたのは、なくなる約一か月前でした。買い物やゴミ出しなど、これまで一人でできていたことが急に難しくなったのです」

そのまま生きる気力を失い、生活の質が急速に低下していってもおかしくはない。だが、入江さんは違った。「ヘルパーの助けも借りながら、亡くなる三日前まで大好きな入浴を続けました。かかりつけ医、訪問看護師に加え、在宅看取りのサポートをする「看取り士」も入江さん宅を定期的に訪問していました。亡くなる前日には、禁止されていた炭酸飲料を飲むことができましたし、お気に入りのテレビ番組も好きなだけ見られました」

次の日の朝、看取り士が到着した時点で、入江さんの呼吸は浅く、ゆっくりとしたものになっていた。事前に決めた通り救急車を呼ぶこともせず、呼吸が停止していく入江さんを、看取り士は優しく抱きしめた。連れ合いを亡くし、同じように一人で生きてきた人でも「暗い孤独死」と「明るい孤独死」では大違いだ。両者を分けたのものは何だったのか。前出の柴田氏は答える。

「自分が死ぬことを受け入れ、自宅で死ぬためのチームを築けたかどうかではないでしょうか。在宅診療医はもちろん、訪問看護師やヘルパー、看取り士との間に信頼関係があれば、いざという時に備えて自宅のカギを預けることもできます。さらに、入江さんのように最後に食べたいものや行きたい場所といった希望を叶えるサポートまでしてもらえるのです」

自宅で明るく死んでいった人たちには、身近に頼れる家族はいなかったが、決して『ひとり』ではなかった。


『週刊現代』7.10


加藤  |MAIL