加藤のメモ的日記
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非正規雇用を見直せ
しかし日本には「労働市場の分断」という深刻な問題もあります。労働者の6割を占める「正規雇用労働者」は恵まれた給与と福利厚生を享受していますが、残り4割の「非正規雇用労働者」は、低賃金で不安定な暮らしを余儀なくされている。日本企業は、非正規雇用労働者を使い倒すことで人件費を抑えてきました。岸田総理が本当に日本経済を復活させたいなら、労働市場の分断という問題を避けて通ることはできないでしょう。
まずは最低賃金を引き上げることから始め、非正規も含めた労働者全体が潤うようにするしかない。人件費を切り詰め続けてきた日本企業の在り方を変えることができれば、岸田総理名前も自ずと世界に知れ渡るようになるはずです。
「岸田さんは煮え切らない男」
岸田さんは夏目漱石が書いた『それから』という小説の主人公・長井代助という男とよく似ています。代助は裕福な家の次男で、働かずに実家の仕送りで暮らしていた。「高等遊民」でした。しかも三千代という女性に恋心を抱いていたにもかかわらず、親友の平岡に彼女を譲ってしまうほど意志が弱い人間でした。
この代助と同じように、岸田さんは「煮え切らない男」だと私は思っています。そうした性格ゆえ、岸田さんは「政治家らしくない政治家」だと言っていいでしょう。本来、政治家というものは明確な「権力の意思」を持つものだと、19世紀のドイツの社会学者マックス・ウェーバーは述べています。その点では「日本を取り戻す」と繰り返し「戦後レジームからの脱却」をめざした安倍元総理は、「権力の意思」がはっきりしていました。
しかし岸田さんは何をやりたいのかわからない。そして代助が実家の財産で暮らしていたように、安倍政権のレガシーを「遺産管理人」として、守っていけば長期政権でいられる、という思惑があったのでしょう。ところが旧統一教会の問題をはじめ、さまざまな不良債権が入っていたことが判明した。そこから岸田さんの迷走が始まったのです。
岸田さんは政治家としての軸がないため、その時々の状況に流されて「機会主義的」な対応をしています。たとえば旧統一教会問題では、宗教法人の解散請求の要件について「、民法の不法行為は入らない」と発言した翌日に「入りうる」とガラッと答弁を変えたこともありました。しかも堂々と国会で謝罪までした。与党も野党も驚愕したはずでっす。それまでの安倍さんや菅さんだったら、木で鼻をくくるようにしれっとした対応貫いたでしょうから。しかし岸田さんは、簡単に態度を変えることができてしまう。
「機会主義的」というのは、ある意味で危険なことです。たとえば戦前の近衛文麿総理は皆から期待されたものの、自分が何をやりたいのか定まらず右往左往した挙句、戦争の泥沼に突入していきました。カラーがなく、摩訶不思議な透明人間のような岸田総理。しかし、そんな「異色の総理」だからこそできることもあります。それは小泉政権以来続いてきた「分断」を乗り越えることです。例えば60年安保で国を二分した岸信介さんのあとに登場した池田勇人さんのように、バランスをとっていけばいい。
強い権力の意思を持たない岸田さんなら、野党とも妥協点を見出していけるはずです。それこそ一つひとつの政策ごとに、維新の会や共産党と手を結んだっていいでしょう。カリスマではない岸田さんだからこそ、議論を活発化させて国民の関心を政治に向けさせることができると、私は信じたいです。
姜尚中(政治学者)
『週刊現代』11.12
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