加藤のメモ的日記
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2023年06月23日(金) |
ふらつきから始まって「寝たきり」になるまで、わずか2か月 |
「母が自宅で寝たきりになってから、1年が経とうとしています。日に日に瘦せ細り以前の姿はもう、見る影もなくなってしまいまいした。それまでは身の回りのことは自分でこなすのが母のプライドでもありました。でも、今やすっかり無気力な状態です。元を辿れば、母がこんな状態になったのは、たった1回のふらつきが気きっかけでした」
小鶴聡子さん(仮名、82歳)と二世帯住宅に暮らす長男、重彦さん(58歳)はこう切り出した。聡子さんがふらつきを起こしたのは、寝たきりになる僅か2か月前のことだった。それから坂を転げ落ちるように弱っていき、今では重彦さん家族の手を借りずには生活が送れない状態に。たった一度のふらつき、それが聡子さんの人生を一変させた。
「母にとってそのふらつきは相当な恐怖でした。起き抜けにベッドから立ち上がろうとした瞬間、耳のあたりにグラグラと揺れを感じ、よろめいた。かろうじてベッドの手すりにつかまりはしたものの、危うく転倒しかけたようです。母がめまいの再発をしきりに心配するので、近くの耳鼻咽喉科に診てもらいました。かかりつけ医の下した他診断は『良性発作性頭位めまい』というものでした」
実はこのめまいは、がんや脳梗塞など死に直結するような類もものではない。起床時あ前かがみになった時に耳石が動き、一時的に平衡感覚が失われるもの。つまり、ふらつきの中では深刻度が低いのだ。だが、このふらつき、めまいの怖さは別のところにある。
転倒の恐怖で身体が震える
聡子さんはこの1件以来、あらゆる場所で転倒しかけた恐怖がフラッシュバックするようになる。そして、次第にまともな生活すら遅れなくなってしまった。 「たとえば部屋を移動するときや、食事のために椅子に座ろうとする場面でことあるごとに『足が地についていない気がする。めまいがする』と口にするんです。はじめのうちは『心配し過ぎだよ』とフォローしていましたが、だんだんそうも言っていられなくなりました。最初にふらつきを覚えてから1か月が過ぎたころには、ふらつくの怖くて、体を動かすこと自体を嫌がるようになってしまったんです。
それからはベッドの上で過ごす時間が増えた。母からしたら、横になっていれば、めまいで転ぶ心配もないという思いなのでしょう。ですがそんな生活を送っていれば体力が衰えるのは当たり前。さらに1か月がたつ頃には、完全に寝たきり生活となってしまいました」実は彼女がかかったのは「恐怖性姿勢めまい(PPV)}と呼ばれる、れっきとした病なのだ。「PPVはいわゆる、恐怖症の一種。これは例えば良性発作性頭位めまいで転びそうになった経験から、また倒れそうになるのが怖くて動けなくなる症状を指します。
その結果、患者さんは寝て過ごすことが多くなり、自律神経系や筋力の機能が低下する。負のスパイラルに陥ってしまい、そのまま車いす生活や寝たきりの生活になってしまいます。私の経験から言っても、潜在的にこの病に悩む患者さんは本当に多いんです」(書く若い丸田町病院の上田さん)
ようするに、まためまいを起こしてしまうという恐怖心がきっかけでみるみる衰弱してしまうのが、PPVのやっかいなところ。だが、この病気は患者がふらつきを意識しすぎるあまり体が震えるだけで、身体機能はしっかりしている。「もう身体の異常はない」と本人が納得すれば、ちゃんと治るものなのだ。あれよあれよという間に人生が暗転するふらつき。その意味では、他の病気よりずっと恐ろしいものかもしれない。
『週刊現代』11.16
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