加藤のメモ的日記
DiaryINDEX|past|will


2023年04月28日(金) 今、脳死をどう考えるか ��

私の名は、移植コーディネーター
「日本は今、さかんに脳死論争をやっているみたいだが、アメリカでもこの問題は一朝一夕で解決したわけじゃない。やっぱり死体から臓器を取り出し、別の人間へ移植するというのは、目からコンタクトレンズを外すような単純作業とはわけが違うからね」

マンハッタンから北へ約40�辧▲縫紂璽茵璽�のヘイスティング研究所を訪ねた我々に向かって、倫理生命学者のウィラード・ゲイリン博士はユーモアを交えながら熱心に語りかけてきた。「日本人のように死に関して、旧式のセンスにこだわっている限り、脳死患者からの臓器移植などできっこないよ。旧式のセンスというのは心臓死に至り、肉体が硬直し、身体が何も機能しなくなる目で確認するものだ。でも、その状態になると臓器はもう使いものにならない」

そう言うと、博士は現代医学の流れに話題を転じた。「脳死の発見は、現代医学の進歩の産物であり、それに続いた人工呼吸器の発明が脳死状態の維持を可能にした。その結果今の移植医療が登場してきたのです」博士の意見は明快である。

「脳死は、人間のパーツを取り出すことを可能にした。そこでネオモード、つまり”生死体”という新しい死の定義が生まれたのです。ただそうした死の定義が臓器移植の進歩と同時進行したため、不幸な誤解が生じて移植専門の医者たちは一般からあらぬ誤解を受けることになりました。『ちょっと待て、何のために脳死の宣告をやるのだ?お前たちが別の患者に使うためのぞうきがほしいからではないのか』と」

私はロナルド・ブステル教授の率いるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の肝移植チームを取材した際、一人の移植コーディネーターと会った。ナンシー・ジョンソンさん。26歳。やや小柄ながら、金髪のアメリカ美人である。「アイ ラブ マイ ジョブ(私はこの仕事が好きよ)」とほほ笑む彼女は同チームの有力な一員として、主に臓器を提供する脳死患者の家族と接するドナー・コーディネーターの仕事に携わってきた。

もっとも移植コーディネーターといっても、日本ではまだ一般に馴染みのない職業名かもしれないが、臓器医療の現場で文字通り潤滑油ともいうべき役割を果たし、アメリカ全土で現在1400人を数えているのである。たとえばこの南カリフォルニア地域の場合、臓器提供者にとなる脳死患者の平均年齢は28歳と非常に若い。

これはつまり、ある朝、元気に家を出たはずの息子が車にはねられか、銃で撃たれるかして、脳死を宣告されてしまうといったケースがかなり多いということである。そうした脳死患者の家族たちを相手に臓器の提供を持ちかけるのはかなり骨の折れることであるはずだが、彼女はそのドナー・コーディネーターの仕事を約3年間続けてきたのである。

【渡辺】 脳死患者の家族に向かって、臓器提供をお願いするというのは、十分な経験に加えて、誠実さや忍耐力が問われる仕事だと聞いていますが、ナンシーさんはこれまで何例ぐらいの脳死患者と関わってきたのですか。

【ナンシー】正確な数字は覚えていないけど、全部で数百例。確か最初の1年半で200〜300例だったから、とにかく一日に3度もドナー(臓器提供者)の情報が飛び込んできて、3家族全部と話した経験もあります。

【渡辺】あなたが臓器の提供を持ちかけて、家族側の「イエス」と「ノー」の比率はどのくらいですか」

【ナンシー】私の経験では、全体の7割は「イエス」。「イエス」の確立が最も高いのは中流の白人家族で、アジア系の人は「ノー」が多いですね」(笑)

南カリフォルニア地域臓器調達機関(ROPA)の最新データ(1990年1月〜12月)によると、この地域での臓器提供者の男女比は65対35で男性が多い。人種別では圧倒的に白人が多く、全体の66%を占めている。次いで25%がヒスパニック、7%がアフリカ系アメリカ人(黒人)2割がアジア人など黄色人種。また、臓器提供者全体の3割強人から多臓器(心臓、肝臓、肺、腎臓などすべの重要臓器)が提供されている。


『いま 脳死をどう考えるか』渡辺淳一


加藤  |MAIL