加藤のメモ的日記
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2017年02月15日(水) 無葬社会

彷徨う遺体 変わる仏教

ゆうパックでお骨を送り、お坊さんを買う。「埋葬されない死者」が急増している。

戦後長く年間死亡者数は70万人〜80万人規模であったが、進む高齢化で今や130万人台に突入し、2030年には160万人台に突入し、2030年には160万人台にまで到達すると推計されている。多死社会がどういう問題をもたらすのかを、死と葬の変化を中心に丹念な取材をもとに活写した問題作。

著者はs気に『寺院消滅』で、都市化により過疎化した地方社会の中で進行する、寺院が荒廃し消滅していく姿を、具体的事例を取材して問題提起し、強烈なインパクトを与えた。その続編とも言うべき本書では、多死社会を先取りする大都市の死の現実と仏教寺院の抱える問題を描く。

「無葬社会」とは著者による造語である。しかし、看取る人がない単独死、葬儀をせず火葬だけで済まされる直葬、墓地への埋葬に立ち会うことなく、ゆうパックで遺骨を墓地に送る送骨などの遺骨処分が増加する傾向にあるから違和感がない。著者によれば「無葬社会」とは、死者が埋葬されず供養されない事例が増える社会のことなのだ。

地方から都市への墓の引っ越し(改葬)が持つ問題、アマゾンへの「お坊さん便」の出品からうかがえる、宗教意識が低下した都市住民と財政的に逼迫した地方僧侶の利害の一致のありさまは、記者であり僧籍も持つ著者の問題意識がよく現れ、重層的に描かれている。単独世帯が増加し、増える「おひとりさまの死」のリスクの著述もリアル。

墓の変化においては、改葬の受け皿となり、大都市に進出する寺院による大規模納骨堂ビジネスが描かれる。戦後、家制度は法的根拠を失ったが、墓の習慣においては生きてきた。それも家族の変化により崩れ出していることは著者の描くとおりである。だが、現実は著者が描く先を走っている。著者は、多死時代の無葬社会は不可避かもしれないが、「亡き人を供養したいという根源的なこころ」を信頼し、そのためには仏教の再生が鍵となることを力説している。



『無葬社会』鵜飼秀徳(うかいひでのり)雑誌『SOPGI』元編集長


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