加藤のメモ的日記
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2009年11月21日(土) 短剣と鞘・先史時代を代表する逸品

小型短剣は公式収容の時、ヘン教授自身が収集した。教授がこれを拾い上げると刃がはずれて水中に落ちてしまった。オーストリア放送協会がその場面を撮影していたので、これの発見場所は正確にわかっている。遺体の主はおそらくこの短剣を右腰の部分、たぶん腰のベルトに付けていたと思われる。この鞘付きの短剣は収容作業の際に、ピッケルで傷ついてしまったらしい。中央部に斜めに当たったらしく、柄の前部に傷がある。

この短剣は驚くほど小さい。全長12.8センチしかない。両刃だから短剣と呼ぶことにするが、もし片刃だったらナイフというべきところだろう。刃先はこぼれていた。8〜9ミリぐらい欠けたのだろう。彼の生前にすでに欠けたのか、それとも収容作業中に欠けたのか、それは不明だ。

刃の長さは、柄の中に入り込んでいる部分も含めて、6.4センチである。もし柄かがなかったら、この刃はきっと矢じりと判断されたかもしれない。材質は石器時代によく使われたフリント(火打石・発火石)製である。丈夫な修正用の小道具で鋭い刃に仕上げたのだが、これはわずか数分っ出来る作業である。柄の中に入り込んでいる刃の先端が元来どのような形をしていたか、それはわからない。ピッケルで粉々になったからである。

柄の材料はトリネコ材。これは古今を問わず道具の柄にうってつけの木だ。柄の長さは8.9センチ、断面は長方形から角をとった形をしていて、長い辺が2.1センチ、短い方が1.1センチから0.8センチである。刃の付け根を締めている紐は動物の腱でできており、かなりの強度を持っている。それ以外には別段柄には手を加えておらず、製作者は美しさよりも強度を重視したものと思われる。

柄の握りの部分、つまり頭の部分は左右に刻み目があって、そこに2本の草をよった紐が縛ってあり、簡単に一回結んである。紐の長さは6センチ足らずで端が切れている。この紐はおそらく、紛失を避けるためにどこかに結わえたものだろう、刃が柄の中心線から幾分ずれているのも、ピッケルのせいか?刃と木をつなぐのに接合剤を全く使っていないのは、注目に値する。

鞘のほうはおそらくシナノキ(洋種菩提樹)の樹皮を編んで作ったものだ。これは芸術的な作品と呼んでいいだろう。彼自ら武骨な手で作ったのか?いや、もっと器用な手のほうが似つかわしい。刃と同様に裂け目があるが、これもおそらくピッケルの仕業だ。全長12センチであり、短剣を入れると握りの頭の部分が出るだけだ。

作り方はまず、小さなござ状のものを作ってから、それを半分に折りたたんで袋を作り、そこに草の紐を編みこんだのだろう。口の部分は紐が二重になっており、そこから1.4センチ間隔で、7本の紐が編みこまれている。そして先端は草紐一本で縛ってある。側面の上部には、幅8ミリの革紐が結わえられている。これはおそらく革ベルトに結びつけられていたのだろう。先史時代のもので、これに比肩しうる逸品を、私を見たことがない。




『5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎』コンラート・シュピンドラー


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