加藤のメモ的日記
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2009年01月03日(土) 誰が電気自動車を殺したのか(1)

日本ではあまり話題とならなかったが、2006年6月30日、アメリカ映画『誰が電気自動車を殺したのか』が公開された。この映画は、3年ほど前までアメリカで利用されていた電気自動車が、顧客の高い購買意欲に反して、メーカーに回収されて次々とスクラップにされていった謎を振り返り、その背景に石油業界、政界、自動車業界の複雑で危うい関係があったことをほのめかしつつ、消費者も彼らの大々的キャンペーンでブームに安易に乗ってしまった過去十年間を徹底的に批判的に捉えたドキュメンタリーだ。

1990年、米カリフォルニア州では1998年までに販売される全車種の2%、2003年までには10%を無排気車両に規制する法案が可決されたことから、大手自動車メーカーは積極的な設備投資を行い、次々と電気自動車を開発・発売した。

GMは10億ドルを超える巨額投資を行い、スポーツカー「EV1」を誕生させた。EV1は、まだ強力なリチウムイオン電池も普及していなかった1994年のテスト走行時に、時速295キロのスピードを達成した。ちなみにリース価格は月額350〜570ドル程度で、総計1117台が生産された。

フォードからはランガーEV、クライスラーからはTEVanが発売され、ホンダはEVplus、トヨタはRAV4EV、日産はAltraなどを販売した。各、メーカーが投入した電気自動車はきわめて優秀な走行性能を備えていたばかりでなく、エアバッグ、ABS、エアコン、カーステレオ、パワーウィンドウ、キーレス・エントリーなど、安全性・快適性も充分であった。排気ガスをまったく出さず、タイヤと路面の摩擦から生じるノイズ以外はほぼ無音という、画期的な自動車であった。

ところが、2001年になると状況は一転。カリフォルニア州の空気資源委員会は規制を緩和して、自動車メーカーにハイブリッド車のような部分的な規制緩和を認める方向転換を打ち出したのだ。巨額投資を行ってきたGMとダイムラー・クライスラーは、新ZEN規制が連邦政府の方針に反するとして、カリフォルニア州と空気資源に委員会を訴えた。

しかし、2003年4月、空気資源委員会はZEV規制を緩和し、さらに水素を利用した燃料電池者や、ハイブリッド車を生産するように業界に促した。その後、自動車業界は同年10月に訴訟を取り下げることとなったのである。

この流れを受けて、GMはEV1のリース・プログラムの中止を決定し、最後のリース契約は2004年4月に満了した。プログラム中止時には5000人以上ものリース予約者がおり、評判も極めてよかった。リース契約者の多くは、契約期間満了後の買取を求めたが、GMはそれを認めず、大学や博物館等へ寄贈したもの以外はすべて回収し、最終的にはスクラップにしたのだ。

スクラップ業者は、理由を一切知らされないまま、新車同様の電気自動車をスクラップにするよう、ディーラーに頼まれたという。これは、GMに限らず他の自動車メーカーの電気自動自動車でも同様だった。そしてカリフォルニア州の各地に設置されていた充電スタンドも、次々と撤去されていった。

そもそも電気自動車の販売に関しては、すべてのディーラーに異例の条件がつけられていた。基本は3年間のリース契約による販売で、契約期限満了後の買取は許されず、メーカーに返却することが義務付けされていたのだ。消費者に所有権を与えたくなかった背景も感じられる。

ひとたび電気自動車を販売してみたら、著名人がリース契約を行い、電気自動車の良さを訴えるなど、予想以上に評判がよかった。爆発的な人気となることを恐れた石油業界がブッシュ政権に働きかけ、ZEN規制の修正を急いだ可能性も、この国がイラク戦争に踏み切った背景を考えれば、簡単には否定できない。

そこで自動車メーカーとしても最悪の場合、電気自動車が回収される運命になることをあらかじめ想定していたのかもしれない。もしリース契約でなければ、その後もパーツなどの生産は続け、サポートも行う必要がある。また、一度売ってしまった車を強制的に回収することは困難で、訴訟に発展することも考えられる。そのためあえて買い取り不可のリース契約による販売を選択したのだろう。

石油業界と交流を持つ、自動車メーカーの上層部では、関連業界の意向も無視できない。電気自動車は従来のガソリン車と比べて、シンプルな構造をしている。3年ごとに必要なバッテリーの交換以外は、メンテナンスがあまり必要ないので、販売後の修理やパーツ販売などアフターケアで見込める利益は少なく、従来車ほど大きな利益が望めないと判断したのかもしれない。

しかも電気自動車用のバッテリーやモーターなど、各パーツは自動車業界以外のメーカーでも開発できる。そのため長年自動車メーカーが培ってきたエンジン開発など、独自技術の価値が希薄化し、その点でも努力が報われないばかりか、会社存続の危機に繋がる恐れがある。例えばSUV者の多くは大排気量のガソリンエンジンを搭載した四輪駆動車で、圧倒的なパワーを売りにする商品だ。一台あたりの利益率も極めて高く、自動車業界にとっても、石油業界にとっても大歓迎の商品なのだ。

ただ同然で携帯電話を販売し、その後の通話料やバケット代で利益を出すビジネスや、安価のプリンターを販売してその後に高価なインクカートリッジで利益を上げるビジネス同様、いやそれ以上に関連業界全体の利益に大きく貢献するビジネスといえるのだ。


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