加藤のメモ的日記
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2008年10月12日(日) 歯医者の独白

歯学部に入る人って、医学部に行きたくても行けなかった挫折者が多いんです。医学部に進みたくて高校のころから専門の予備校に通って勉強していたのに、受験に失敗したり偏差値が足りなかったりで仕方なく歯学部に転がり込むわけです。小さいころから歯医者に憧れて歯学部に入る人ってごく一部でしかないんです。

「僕は大きくなったら医者になる」という夢を抱くことはあっても「大きくなったら歯医者になって、いっぱい虫歯の治療をするんだ」なんていう子供はいないでしょう。

「歯医者は往診がないから楽だ」「歯医者は夜中に急患で起こされる心配がない」などと昔から言われていますけど一生の仕事を決めるのにそんなことを考える人はいませんよ。仕事を決めるうえでありそうな考えは「歯医者は儲かりそうだ」ということぐらいです。「医者になって貧しい人々の命を救いたい」などと、正義の味方”赤ひげ”のようなことを考えている人なんて、まずいるわけないのです。

「医学部を落ちたら歯学部に行けよ。間違ってもサラリーマンになろうなんて思うなよ」そう親から尻を叩かれ、”歯学部でもいいか”という気になるんです。私はともかく医学部に進みたかったんです。慶応と慈恵医大が目標で現役のときはその二校しか受けませんでした。

そして二校とも落ちたら父親が、「全寮制の医学部専門の予備校があるからそこに入れ」です。今どき全寮制の予備校があるなんて信じられなかったですよ。目の前が真っ暗になりました。現役で合格していれば大きい顔ができたし、合格プレゼントでハワイにも行かせてくれる約束だったんです。そんなバラ色の夢はどこかに吹き飛んでしまって、自由のない全寮制の生活が待っていたわけです。

そこでは朝七時のラジオ体操に始まり、一日中勉強勉強の毎日です。生活のリズムは軍隊に似ているんではないかと思います。朝起きる時間から食事の時間、風呂の時間まできっちりと決まっているんです。夜11時が消灯の時間ですが、1時や2時まで勉強している奴がいました。

部屋は一応個室なんだけど3畳間です。しかし窓の外に見えるのが墓地だったんです。こんな世界にいるのはいやだ、何がなんでも来年は合格しなければと必死になりました。もし落ちたらまた地獄を味わうことになりますから。

一浪した末、慶応と慈恵医大の医学部、そして〇大の歯学部などを受けました。医学部は二つとも落ち、合格したのは〇大の歯学部だけです。「来年も医学部を受けるか?」と父親は聞きましたがそんな気にはなれません。地獄は一年でたくさんだから、結局〇大の歯学部に入るしかなかったのです。

      


『私は悪い歯医者』


加藤  |MAIL