加藤のメモ的日記
DiaryINDEX|past|will
最近インプラントという治療法がやたらと話題になっています。インプラントというのは人工歯根を骨内に植え込み、それを足がかりに義歯を保持させようという方法です。ブリッジや入れ歯が合わなくなって泣かされてきた患者には朗報だと、たいそう話題になりました。大学でも学生はインプラントについて一通り教わるんですが、実習はありません。
このインプラントに対しては歯学界の一部から「まだ研究中の治療法であり、すべての患者に適応できるわけではないので、あまり普及させようとすべきではない」という声が高まりました。確かに多くの問題点を残しているんです。「一年しかもたなかった」「インプラントはもって三年。五年もつことはほとんどない」
などの声がありますが、何年たっても大丈夫という人も多くいます。もつかもたないかは材質の問題、埋め込んだ周りの骨組織と接着できるかどうかなどの問題があります。まだ安定性がないんです。
インプラントは高いという問題もあります。材料についてはメーカーからどんどん新しいものが発表されるし、何がベストであるかの臨床データも少ないんですが最近のハイドロキャシャパレルという人骨にいちばん近い材質を使いますと、一本あたり二十万から三十万円近くかかります。
四〜五本のちょっとした義歯で二百万円はかかるのです。材料が高いだけでなく、インプラントの技術を習得するためには、何百万も払って研修を受けなければなりません。歯医者としてはかなりの先行投資を強いられるわけですが、インプラントの患者を五人も扱って高い治療代を取れば元は取れてしまうんです。
研修に投資して技術を獲得したんだから、その技術を用いてほしい患者から回収するのが当然と考えるんでしょうけど、そういうことは審美歯科的な発想ですよ。入れ歯やブリッジのろくな処理もできないような歯科医が、これまでの義歯に対する患者の不満に乗っかって、ローンで組ませてインプラントをやるのはひどすぎると思います。
またインプラントを埋め込むときに下あごの神経を傷つけてしまったために、顔面が麻痺してしまったという失敗例も報告されているんです。インプラントの手術って難しいんです。時間的には一本あたり十五分程度なんですが、歯茎に歯根を埋めてからの方向性、噛み合わせなどの調整も難しく口腔外科の助教授クラスが執刀してもトラブルが出てしまうことがあるくらいです
臨床経験の多いベテランでなければ、本当は執刀するもの不安なんじゃないでしょうか。インプラントが適応する体質かどうかの見極めも大切です。安易に治療すると結局患者を泣かせることになる。何百万も出した歯が一年でだめになり、患者に責められても「あなたは歯が抜けた後のアゴの骨と質と厚さが、インプラントに合わなかったんです」と、とんでもないことをいって終わりにしてしまう。
もともと何もないのに歯が抜けるわけがないんです。歯槽骨がやせたために抜けてしまったら、そこにインプラントを埋め込んでももつわけがないんです。そこを見極めるのが歯医者の責任なのに患者のせいにしてしまう。
現在インプラントを実施している歯医者が多くなってきています。インプラントが儲かることがわかったので採用する歯科医が増えて、相対的に技術が向上したことがその理由でしょう。患者側のインプラントに対する認識も広まっていますから、高額であることと難しい手術が伴うことも理解したうえで、インプラントをやりたいという人が増えたのです。これからの若い歯科医には、インプラントと審美歯科の技術は必須のものとなるのではないかと思います。
『私は悪い歯医者』 2000年12
|