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2005年07月28日(木) ■ |
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「韓国現代詩選」茨木のり子翻訳 |
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たとえばホン・ユンスク(洪充淑)「人を探しています」の詩を読むと、世界のどこでも共通する普遍性を感じる。しかし、一方で彼女は、青春時代が朝鮮戦争のときで、今はもう故郷に帰ることができないという事情を持つ。そういう事を知って読むとまた、別の感情が沸くのである。
カン・ウンギョ(かん恩喬)
「芥子粒のうた」
そんなに大きくなくっても いい そんなに熱くなくっても いい 芥子粒ぐらいだったら いいの 芥子粒に吹く風であれば じゅうぶん
チョウ・ピョンファ(趙ぴょん華) 1921−、八方美人(パルパンミイン)万能選手
「たそがれ 私の自画像」
捨てるべきものは捨ててきました 捨ててはいけないものまで捨ててきました そして御覧のとうりです
ホン・ユンスク(洪充淑) 1925− 平安北道 定州郡 出生
「人を探しています」
人を探しています 年は はたち 背は 中くらい うすももいろの膝小僧 鹿の瞳 ふくらんだ胸 ひとかかえのつつじ色の愛 陽だけをいっぱい入れた籠ひとつ頭に載せて ある日 黙ったまま 家を出て行きました 誰かごらんになったことはありませんか こんな世間知らずの ねんね もしかしたら今頃は からっぽの籠に 白髪と悔恨を載せて 見知らぬ町 うすぐらい市場なんかを さまよい歩き綿のように疲れはて眠っていたりするのでは 連絡おねがいします 宛先は 私書箱 追憶局 迷子保護所 懸賞金は わたしの残った生涯 すべてを賭けます
李海仁(イヘイン) 釜山の修道院の女性。
誰かがわたしのなかで
誰かが わたしのなかで 咳をしている 冬の木のようにさびしくて まっすぐな人が ひとり 立っている
彼はしわがれ声のままで わたしを呼ぶのだが わたしは気軽に応答できず 空ばかり眺めている もどかしさよ
わたしが彼を 寂しがらせたのだろうか 彼がわたしを 疼かせているのだろうか 謙虚なその人は わたしのなかで つづけざまに咳こみ
わたしはさらに語るべき言葉を失っていく あてどない悲しみよ
ファン・ミョンゴル(黄明ゴル) 1935−平壌出身 1970年代東亜日報解雇
「焼酎のように冷たく熱く」 たとえ酒を呑もうとも 焼酎のように冷たく熱く この世を生き抜いてゆこうとした ところで今日はどうしたわけか 何杯かの酒にしどろもどろ 酒までこぼすていたらく とうとう通りでぶっ倒れた 星もさむざむふるえる夜 町は隅々まで切り裂くような刃の風で ごたつていた今日の昼の うそ寒い事態のように すべてのものが氷りつく 硬くこわばってゆくからだ 寒さが血を凍らせて 風が皮膚をえぐってゆく しかしだ、しべりやの極寒も 血の流れを止めることはできず 皮膚を切る氷の刃いくら深くたって 熱い内臓は取り出せないだろう それは星がいくら寒さにふるえても 落っこちてこないのとおんなじだ おもえば、あんなにも活発にいきいきと 廻っていた輪転機 あんなにも元気よく声をはりあげて町を 走り出す新聞売りの少年 彼のように起き出さなければならない 彼のように走り出さなければならない のんだくれ 冬の酔っ払いめが 氷点下のこの町で よしんば酒を呑むとしてもだ 浮世や 焼酎のように 冷たく熱く 生きてゆこう 冷たく熱く 生きてゆこう
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