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2004年09月03日(金)
「夜這いの民俗学・夜這いの性愛論」ちくま学芸文庫 赤松啓介

「夜這いの民俗学・夜這いの性愛論」ちくま学芸文庫 赤松啓介
単行本のときはなかなか気恥ずかしくて買えなかったし、結構な値段だったのでつい遠慮していたのだが、文庫本になるとなぜか気軽に買えた。なかなかの良書であった。

赤松啓介の語りはなかなかの名調子で、読み物としても面白い。一方学術書としては、明治から昭和にかけての村の夜這い民俗事例の再現のみでなく、都市商業地域の性習慣も扱っており、貴重な証言だと思う。赤松啓介の民俗事例を科学的に検証するのはいまではおそらく不可能であろう。民俗事例だと意識しながら話を聞いていたのはおそらく日本では彼一人しかいなかったのだから。しかし彼が悪いのではない。その方面を「無視」した柳田民俗学が悪いのである。赤松啓介は歴史の中に伝説として埋もれたかもしれない民俗事例を「それはあった」と言い切るだけの話として自ら体験しながら採取した事、それだけで彼の価値は大きい。

ただ、惜しい。あと5人ほど赤松啓介がいたらなあ、と切に思う。性民俗に溶け込める庶民性と、民俗学という科学的知識を持った知性を併せ持った人があと数人いたなら、「夜這い」から現代の「若者のセックス観」に至る道筋を歴史的にたどる事が出来たろうに。「今の若もんの性は乱れきっとる」などというもっともらしい意見に対して、説得力のある反論も出来たろうに、と思う。