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| 2004年07月01日(木) ■ |
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| 「秘太刀馬の骨」文春文庫 藤沢周平 |
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「秘太刀馬の骨」文春文庫 藤沢周平 藤沢周平の随想を読んでいる読者には良く知られている事なのだが、藤沢氏は大の海外ミステリー好きである。ミステリーの一つの分野に「犯人探し」ものがある。犯人は誰か、容易周到な読者はむろん気が付くかもしれないが、多くの読者は騙される。しかし一つだけ原則がある。社会派推理物とは違い、犯人は必ず「意外な人物」であるという事だ。
さて、この作品は先ずは「剣客小説」といっていいだろう。氏の真剣勝負の描写には定評がある。今年の秋にもまた、氏の剣客小説の一つが映画化されるそうで私は大いに楽しみなのだが、映像で見るのとはまた違い、文章で読むと「目にも止まらぬ速さ」とは想像の世界では本当に目にも止まらぬ速さとなり、楽しい事この上ない。
一方で犯人探し物としてもまた面白かった。秘剣継承者ははもちろん「意外な人物」であった。ただし、本来のミステリーファンは不満を抱くであろう。「きちんとした」伏線は張られていないからである。もちろん伏線は張られている。その微妙な伏線を私は大いに楽しんだ。そしてそれが氏の「奥ゆかしさ」なのだ。氏はこれが「本格推理物」として見られる事を避けたのである。というのが私の推理である。
この作品なによりも「時代小説」である。下城の太鼓の音で自宅に帰っていく武士たちの生活、北の国の四季の移り変わりを丁寧になぞっていく描写、その中での武士の「覚悟」、現代に通じる派閥の暗躍、氏が一番描きたかったものを読者は見落としてはならない。(04.04)
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