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| 2004年06月21日(月) ■ |
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| 「回天の門」文春文庫 藤沢周平 |
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「回天の門」文春文庫 藤沢周平 口先三寸で薩摩藩士達を討幕に持っていき、伏見寺田屋事件を誘発させた男。一転幕府の金で浪士組を募り、それを攘夷の党に染め変えた男。山師、策士、変節漢。そういう世評にたいし、藤沢周平はそれは「誇張と曲解」があるという。「清河八郎の思想的立場は一貫していて、変節のかけらも見出す事は出来ない。」今年、新選組がクローズアップされる中で、清河八郎という男は悪役に回りがちではある。しかし、彼自身が書いた文章と事実を短念に取材したこの小説を読むと、一人の田舎から出た秀才がひどく生真面目に時代と向きあった一生が浮かび上がる。
浪士組の件はこの小説が九割がた終りかけた頃に描かれる。八郎が実際行動に移すのはこの小説の半分近くにかかってからである。桜田門外の変の報を受け「八郎は幕府という大きな機構が、ずしりと音を立てて滑落したのを感じた。」八郎はそれまでは本気で江戸で文武両道の塾を立ち上げるのを目指していたのである。しかし、時代が彼を突き動かした。いわば70年代の全共闘世代に似ている。八郎たち若者ははテロルに走る。倒すべきは幕府。ふがいないのは各攘夷藩主。八郎に時代は人一倍見えていた。しかし、若さが性急な闘いを求めた。いつの時代も同じなのか。
私はこの作品を読みながらしきりに現代のイラクを考えていた。反米テロ(攘夷運動)、幹部の手を離れ若者が自主的に動く(草莽の志士)。清河八郎の人生は悲しかった。(04.02)
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