2024年09月15日(日) |
G(ゴキブリ)に感謝 |
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「きゃああああああああ」
浴室から悲鳴が上がった。確か、さっき妻が入ったはずだ。オレはすぐにその前の脱衣所の外から声を掛けた。
「どうした? 何かあったのか」
「出たの・・・ ゴキブリが・・・」
どこから入ってきたのか、浴室の天井近くの壁には黒々と羽を光らせたそいつがカサカサと動いていたのである。妻は、カラダを隠すことも忘れておびえていた。オレはすぐにリビングにあるゴキジェットを持ってきて、手を伸ばしてできるだけ近づけてからGに命中するように噴射した。
Gはその一噴射で大きなダメージを受けたのだろうか。そのまま浴室の床に落下した。そこから逃げようとするGに向かってオレはとっさにシャンプーをぶっかけた。下手にゴキジェットを浴びせると殺虫剤が付着したせっけんが使えなくなるし、シャンプーが猛毒であるとオレは知っていたからである。
長年のシャンプー使用でオレの頭髪は失われた。オレはシャンプーがオレの頭皮に致命的なダメージを与えた結果、毛根がその生命を失ったのだと臆測している。そんな危険な液がGにダメージを与えないわけがないのである。
案の定、Gはしばらくもがいていたがやがて動きを止めた。オレは落ち着いてティッシュでくるんでGを捕獲し、そのままぎゅーっと紙を押しつぶして丸めてからゴミ箱に捨てた。妻はカラダを隠すのも忘れてただオレの迅速な行動を眺めていて、最後に「退治してくれてありがとう」と言った。オレは家族とはいえ、久々に女性のヌードを間近に眺めることとなったのである。オレはなんとなくGに感謝したくなった。
それにしても最近よくGは出没する。盛夏の頃はあまり遭遇しなかったのに。暑さも終わりかけた時期になってそこら中に出没するのはどういうわけだろうか。オレにはどうも奴らの行動が腑に落ちないのである。いったいどのような理由でGは出現したのか。彼らは夏の間いったいどこにいたのか。
Gに遭遇した時、オレは必ず追い詰めて殺すわけだが、妻は平和主義者なのか絶対に殺さない。Gが見えなくなるまで待つのである。「一匹殺しても無駄」と妻は言う。それならなぜ浴室に出現したGをオレが殺すのを黙って見ていたのか。それはもしかしたら勝手に自分の裸体を目撃したGへの「処刑」だったのかも知れないとオレは思っている。妻は自分のハダカを見られることを極度に嫌う。着替え中にオレがうっかりフスマを開けてしまったりすると思い切り罵倒されてしまうのである。
そういうわけだから、オレは浴室に出現したGに感謝しているのである。不本意にも殺害することとなったが、その冥福を祈ってあげたいのである。
改めて「Gに感謝」なのである。
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