2024年03月13日(水) |
人間が人間であることを主張する |
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知的障害があれば奴隷のような扱いを受けても文句は言えないのか。北海道恵庭市の牧場で長年の間住み込んで働いていた3人の高齢の男性が、虐待を訴えて訴訟を起こしている。牧場の経営者家族と、その状態を放置して何の改善命令も出さなかった恵庭市に損害賠償計約9400万円の支払いを求めたのである。
その訴訟の第1回弁論は昨年11月28日に札幌地裁(布施雄士裁判長)であった。被告である遠藤牧場の経営者家族と市側は「虐待の事実は認識していない」として請求棄却を求めた。訴えを起こした3人はいずれも60代、18〜45年間住み込みで働き、休日はなく、午前3時半ごろに起床して明け方から日没まで牛の乳搾りや農作業に従事していたという。賃金は全く支払われていなかったというのだ。
この3人は知的障害者として障害者年金を受け取っていたが、その受け取り口座から約20年間で5000万円を超える金額が引き出されていたという。ちなみにその口座は牧場の経営者夫妻が管理していた。障害者年金を取り上げつつ、無給で働かせるというひどい虐待が長年にわたって行われてきたのである。このようなひどい人権侵害を行った経営者一族、並びにその実態を放置した恵庭市は厳しく糾弾されるべきではないか。
既に亡くなっているが、この遠藤牧場の経営者は市議会議長も務めた地域の実力者だったという。市の職員が何らかの忖度をして、この牧場の問題を放置したという可能性も高い。どうせ知的障害者だから文句は言わないだろうと虐待状態を黙認していたのだとしたら市の職員も同罪である。
かつて知的障害者の作業所で障害者が搾取される実態を描いた『聖者の行進』というドラマがあった。そのドラマの主題歌は若者が最近カラオケでよく歌うという中島みゆきの『糸』という曲である。結婚式などで歌われるというが、その曲は当初はこのような社会問題を扱ったドラマで使われていたのである。
学園紛争で東京大学の入学試験が中止になった昭和44年、安田講堂にはこのような落書きがきが残されていたという。
「人間が人間であることを主張する」
この世に生まれてきた人は等しく人権を持つ。それは誰にも侵されることのない天賦のものである。いじめも、親による子の虐待も、悪徳ホスト達が女性に対して行う搾取も、すべて被害者の人権を踏みにじるものである。殺人は最大の人権侵害であり、それが横行する戦争は断じて許されない非道な行為である。さまざまな人権侵害の中で最大のものが「戦争」なのだ。
原告弁護団の船山暁子弁護士は意見陳述で、「(3人は)与えられた環境に疑問をもつことができず、逃げ出すことも、助けを求めることもできなかった」と主張した。そのうえで、「原告たちは、知的障害者である前に私たちと同じ、人権をもつ一人の人間だ。『健常者』に対して許されないことが、障害者相手であれば許されるということはありえない」と訴えたという。
経営者の夫婦らは自分たちが原告3人の「里親」だと主張。原告3人は「『家事使用人』と表するのが妥当」であり、「労働契約が成立した『労働者』だとするのは誤りだ」としている。もしも3人が労働者ではなく「里子」だったとしたら、それは親による「養護者虐待」であり、さらに重い罰が科されるはずだとオレは認識している。
さて、裁判所はこのひどい事件に対してどのような判断を下すのだろうか。
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