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2024年01月31日(水) 桐島聡のパーフェクトデイズ        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan




 連続企業爆破事件の容疑者として指名手配されていた桐島聡のメガネを掛けた写真は多くの人の記憶にあるだろう。逃亡50年を経て彼がずっと潜伏生活を続けていたことが明らかとなった。末期癌で自分の死期を悟った桐島は、最後に本名を名乗って死ぬことを選んだ。正体が誰かわからない偽名の「内田洋」で通すのではなく、最後に自分の名前を取り戻して死んだ。オレはそこに逃亡犯の深い悲しみを思うのである。50年間の間見つからないようにひっそりと生きた桐島聡のその「パーフェクトデイズ」とはどんなものだったのだろうか。

桐島聡は偽名を考えるにあたって、どうして「内田洋」という名前にしたのか。年配の人がその名前から想像するのは、「内山田洋とクールファイブ」であるが、オフィス用品の会社である「内田洋行」から取ったのかも知れない。特徴的な名前を名乗ることで逆にそれが偽名であると推測される可能性を低くしたのだろうか。本人が亡くなってしまった後ではそれは永久にわからない。どこかに本人の手記などが残されていれば別なんだが。

桐島聡は神奈川県藤沢市に40年間暮らしていたという。つまり指名手配されてから10年後にその街にやってきたということになる。それまでの足取りを追うことはほぼ不可能である。彼はこの藤沢で40年間、住み込みの建設作業員として働いていた。街に溶け込み、近隣住人とは普通に付き合っていたし、70〜80人が集まるBBQにも参加していたという。このような逃亡で大事なのは「最初の数年間をどうやって逃げ切るか」ということである。時間が経てば顔も雰囲気も変わっていくし、人目ではわからない容貌になって行く。あとは「偽名でも住めるところ、働けるところ」を見つけられるかどうかである。

 音楽を愛した桐島聡は、月に一度くらいのペースで生演奏を楽しめる店に通っていたという。銭湯への帰りがけに立ち寄ったりして時には音楽に合わせて踊ることもあった。質素な住まいで銭湯に通い、音楽を愛してビールを飲むという生活は、役所広司さんの主演された映画『パーフェクトデイズ』の世界と重なる。そこで彼は「内田洋」なる人物になりきることで捜査の目を逃れることに成功し、ひっそりと生きてきたのである。彼は自分の指名手配写真を見てどう思ったのだろうか。

 もしも自分が大きな罪を犯して逃亡生活することとなった時、部屋を借りて匿ってくれる人が居ればそこで閉じこもって生活し続けることが可能だろう。大阪を離れてしまえば自分の素顔を知ってる者はほとんどいなくなるだろうし、仮に病気になっても「自費診療」を選べば本名を明かす必要はない。死ぬまで暮らせるだけの現金があれば「最後まで隠れ続けること」は可能である。ただ、一歩外に出れば必ず「警察に見つかるかも知れない」という危惧を抱くことになるわけで、何を楽しみに生きていけばいいのだろうかと思うのである。

 桐島聡はその「内田洋としての毎日」の中で何を日々考え、どのような気持ちで生き続けたのだろうか。彼は何を日々の楽しみとしていたのだろうか。親しくなった誰かに自分の内面を語ったことはあるのだろうか。15年ほど前に親密になった女性ができたが、「自分は幸せにできるタイプじゃないから」と交際を断っていたという。もちろん「自分は指名手配犯だから」とは言えないわけで、普通の結婚をして生活するなんてことは不可能である。しかし、偽名のままで同棲することは可能だったと思うのである。自分の恋人が逃亡犯だと知ってもそのまま愛し続けてくれる場合だってあるだろう。

 逃亡犯と言えば、大分県別府市の大学生ひき逃げ死亡事件で、いまもなお逃亡を続ける八田與一容疑者は今はどこにいるのだろうか。人手不足の中、旅館やホテルの中には身分証不要で住み込みで働けるところもあるらしい。別府警察署には時々情報が寄せられ、捜査員が確認するのだという。八田容疑者ももしかしたらどこかで「パーフェクトデイズ」を手に入れるのだろうか。


 最後に本名に戻って死ぬことを選んだ桐島聡、もしかしたら彼は自分を50年間逮捕できなかった警察に対して「お疲れ様、ここでゲームオーバーですよ」と宣言したかったのかも知れない。それは公安に対する一種の「勝利宣言」のようなものでもあるし、あるいはそのような人生しか選べなかった桐島聡の「敗北宣言」でもある。



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