この話はフィクションです。また作品中に登場する人物は実在の人物とは全く関係がありません。
もう交際を始めて10年になるカップルがいた。男の名は大室圭、女の名は秋宮真子という。二人はお正月らしく初詣に出かけた帰りに、不埒なことに今年の初Hも済ませたいと思ったのである。本当に罰当たりな二人である。しかし、10年間も交際していながら親から結婚の許しを得られないという不幸なカップルでもあった。そういう意味で二人がデートの後にラブホに行くことはある意味必然だったのである。
圭には若干の不安があった。それはラブホというものはおおむね年末年始に料金UPされてしまうということである。通常料金よりも2割から3割高いいわゆる「正月料金」にされてしまうのである。いつもホテル代を払っている圭は、高くつくことに対していささかの不安を抱えていたのである。
お正月のホテルは混んでいた。二人の行きつけのホテルである「ゴールデンボール」は入り口に「満室」という表示が出ていた。他のホテルを探さないといけない。それで圭はクルマを走らせて、少し高いが割といつも空いている「フル・レイク」に行ってみた。ところが自分たちよりも一瞬早く駐車場に車を滑り込ませたカップルに、一つだけ空き室表示されていた部屋のボタンを押されてしまい、タッチの差で入り口には「満(フル)」の表示がともった。
ラブホテルがどこも満室ということは、「今日はあきらめて健全にデートを終えろ」という神様の思し召しなのだろうか。圭はあきらめかけたのだが、真子はしっかりと圭の手を握った。その手のぬくもりからは、「絶対に今日は抱き合う」という強い意志が感じられたのである。
あてもなくクルマを走らせた二人の前に、見たこともない一軒のラブホが出現した。ホグワーツ城のような不気味な外観のそのホテルの名前は「ハリー・ボッター」だった。「ハリーポッター」ではなく「ハリーボッター」である。「Po」ではなく「Bo」である。そこにこれから二人が遭遇する大いなる悲劇が存在するわけだが、一刻も早く合体したいと焦っている二人はそのことに気づくはずもなかった。
「ハリーボッター」の入り口には「正月特別料金実施中」とあった。しかし、通常料金は「REST2900円 STAY6600円」と書かれていたので、普段から安いのなら正月でもそれほど上がらないと圭はたかをくくっていたのである。
二人は楽しいひとときを過ごした後、心地よい疲労感に包まれながらホテルを出ることにした。フロントに電話をかけて退室を告げ、ご休憩の料金を確認した。その金額に圭は耳を疑った。なんと53900円だったのである。
圭が部屋で過ごした時間は2時間弱だった。ということは1時間の基本料金である2900円に延長料金が30分ごとに1000円つくから4900円である。そこに消費税が加算されれば5390円である。それくらいならまあ納得の値段である。しかし請求されたのはその10倍の値段だったのである。
圭はその時、小さな文字で記載された正月料金に関する注記を発見した。なんと、12月29日から1月4日まではお正月特別料金で10倍になると書かれていたのである。なんということだ。2割増しくらいならまだ納得いくが、10倍なんてありえないのである。
しかし、どうやらそのホテルは料金を払わないと部屋の鍵がロックされたままで出られないという仕組みのようだった。火事になったらいったいどうするんだと圭は激しい怒りを感じたのだが、今はとにかくゼニを払ってその部屋を出るしかない。このままゼニを払わずに永遠に部屋にとどまるわけにもいかないのである。あきらめて圭は財布を探ったが現金は3万円くらいしかない。ただ真子の財布には10万円を超える現金があったので「真子、頼む」と圭は頭を下げて3万円借り、その6万円を精算機に投入しておつりを受け取った。するとロックが開錠されて部屋から脱出できたのである。
しかし、ラブホテルの料金がこんなひどいぼったくりということがあってよいのだろうか。これがぼったくりバーやキャバレーだったら納得がいく。そういう店は昔から存在するからである。逆らったら怖いお兄さんが出てきてボコボコにされる。しかし、ぼったくりラブホなんてものがこの世に存在してよいのだろうか。
お正月のデートがとんだ高いものについてしまった圭は、怒りとくやしさに打ち震えながら駐車場から出ようとして、振り向いてホテルの名前を再確認した。ハリーボッター・・・・そう、「ボッター」というのは「ぼったくり」の「ぼった」だったのである。なんということだ。どうしてそこに気づかなかったのか。古城のようなその外見から思わず圭はそのホテルの名前を「ハリーポッター」であると早合点していたのである。そもそもそういう名称は常識的に考えてラブホには使えないのである。訴訟を起こされてしまうのである。
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