2020年05月03日(日) |
きつね丼の思い出 |
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オレはきつね丼が好きだ。あの少し甘い味のしみた油揚げが、ごはんの上にたっぷり載せられたあのきつね丼が大好きだ。オレが最初にそのおいしいきつね丼を食べたのは、烏丸今出川のわびすけというお店だった。
わびすけと言えば「いもねぎ」という名物があって、ガイドブックにも載っていてわざわざそれを目当てに遠くから観光客がやってくるほどだった。その観光客たちは、メニューに掲載されたきつね丼には目もくれず、いもねぎを注文するのだった。
そのわびすけは今はもうない。100年の歴史があり、かつてはあの新島襄先生も訪れたことがあるという店は後継者がなくもう跡形もなくなってしまったのである。
京都には他にも油揚げを入れた丼を提供している店がある。衣笠丼という名前で出されているものもある。食べたことはあるのだが、オレがかつて好んだわびすけのきつね丼とは全く違った味だった。
外食チェーンの「なか卯」が一時期、衣笠丼という名前で油揚げの入った丼を提供していたことがある。食べてみたが油揚げにちゃんと味がついていなくて、全くだめなシロモノだった。案の定数か月後に衣笠丼はメニューから消えた。
ただ、このきつね丼は手軽に家で作ることができる。きつねうどん用に市販されている四角い味付きの油揚げを用意して、それを細く刻んで、油揚げの甘い汁と一緒に出汁を入れで加熱し、そこに解いた玉子を落として少し待つとできあがりである。そういうわけでオレは時々家で作って食べている。
関西の大衆食堂の中にはメニューにきつね丼を掲載しているところがけっこう多い。だからたまに注文して食べるのだが、やはりオレが昔わびすけで食べたようなおいしいきつね丼には出会えないのである。どこが違うのだろうか。
わびすけが廃業してからもう10年以上になる。かつてのあの味を覚えている人はどれくらいいるだろうか。同志社大学に通っていた人で、わびすけを知ってる方は多いが、たいていの方は「いもねぎ」しか食べてなくて、きつね丼を覚えてる方はいない。
関西には他の地域にはないローカルな食べ物が数多くある。中には知られて全国区になるものもあるが、そうでないあまり知られていない食べ物もある。オレは自分が愛するそうしたおいしいものをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いと、あまり大衆化して欲しくはないといいう相反する思いの双方がある。人気が出て行列ができるようになり結果的に味を落としてダメになった店はたくさんある。
今、観光地はどこも閑散としていて、飲食業界は苦境に立たされている。その中で、歴史のあるおいしいものが消滅してしまうとしたらとても残念である。オレは自分の愛するものが生き残ってるかどうか、ときどき生存確認のために確かめに行くのである。
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