2020年02月04日(火) |
山川異域 風月同天 |
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コロナウイルスによる新型肺炎で多くの物資が不足している中国に贈られた救援物資の箱に記されていた漢字8文字が話題になっている。それは 山川異域 風月同天 という8文字である。そのことばの由来を知る人からこのニュースは拡散されて中国で話題になっているという。
唐の時代に正しい仏教の教えを日本に伝えるために鑑真和上が来日した。何度か渡航に失敗し、船が難破してベトナムの方まで流されたりして苦難の末にやっと日本に来ることができた時には鑑真は失明していたという。この話は日本史の授業で習って覚えている方も多いだろう。
鑑真が日本に行くこと決心した理由の一つが、長屋王が贈った千着の袈裟である。その袈裟には次の漢詩が刺繍してあったという。この内容に感動した鑑真は渡日を決めた。
山川異域 山川域を異にすれども
風月同天 風月天を同じくす
寄諸仏子 諸の仏子に寄せて
共結来縁 共に来たりて縁を結ばん
それを現代語訳するとこのような意味になる。
私たちの住む土地は違っていても
風や月、そして見上げる天は同じです。
(この袈裟を)仏教を学ぶみなさまに贈ります。
一緒に永遠の縁を結びましょう。
1000年以上の時を経て、「袈裟」ではなく今度は「マスク」が贈られた。その箱にはこの故事を思い起こさせる山川異域 風月同天の文字が記されていた。
住む土地は違っていても、風や月、そして天は同じです。
日本と中国の政府の間には領土や歴史認識をめぐってさまざまな問題が未解決のまま存在する。しかし、それはあくまで政治上のことである。民間の交流にはそういうことは全く無関係である。仏教を信仰する仲間としていつまでも縁を結んでいこうという長屋王の伝えたかったメッセージは今も生きている。オレはこのことを知ってとても感動して、授業で生徒たちに伝えた。
何のために我々は古典を学ぶのか。漢文を学んでいるのか。ただ受験に必要だから学んでいるのか。そうではない。漢字という文化を共有するからこそ、理解しあえる価値が存在する。中国で生まれたこの漢字のおかげで、我々は多くの価値を学ぶことができたのである。今その恩恵に感謝するとともに、隣人との深い絆をこれからも大切にしていくことを誓いたいのである。
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