江草 乗の言いたい放題
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2019年03月05日(火) モノ書きであることの意味        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan


 オレは高校生の頃、文芸部に所属していた。オレが文学部に入ったのは、「書くこと」を仕事にしたいと思っていたからである。残念ながらその夢は果たせず、オレは一介の国語教員として、もうすぐ定年を迎えようとしている。

 どうしてオレが作家になれなかったのか。それは簡単である。オレが本気で目指さなかったからである。それ以外に自分の生きる道がないと思ったのなら、他のすべてを捨ててその目標だけに邁進すればよかったのだ。しかし、オレはそんな生き方をせず、大学生の頃はしがないバイトをしたり旅行をしたりしていたし、旅先で女の子をナンパしたりして怠惰な日々を送ってきた。

 田舎教師として公立高校で働いていた頃は、仕事が忙しかったこととけっこうその職業にやりがいを感じていたことで、作家を目指すという夢は忘れていた。それから私立高校に移籍し、そこで学校の紀要みたいな雑誌に載せるために長編のエッセイを書いた。「100万回生きたねこ・試論」というその文章が、おそらくオレが本気で書いた最初の一本だと思うのである。パソコン通信という世界の中でオレは自分の書いた文章を投稿し、いつのまにかオレはニフティーサーブという狭いムラ社会の中にあるBBS#8というカオスのようなコーナーで、参照王と呼ばれるようになっていた。もっともよく読まれる書き手になったのである。江草乗というペンネームは、その当時に名乗ったものである。

ここでこんなに読まれるのならきっとオレにはもっと可能性がある。そんなふうに思ったオレは長編小説を書き、文学賞に応募してみたがみごとに落選した。その時に書いた原稿用紙400枚の長編「イノコ」は、カクヨムという小説の投稿サイトに載せているのでいつでも誰でも無料で読むことができる。たぶんオレにはそれ以上のまとまった文章を書くだけの気力も体力ももうないし、そのときに「作家になりたい」というエネルギーは使い果たしてしまった。それからあとは、惰性のようにテキストを垂れ流し、それで自己満足するだけの残念なオッサンになってしまった。

 2004年からオレは「さるさる日記」というところで日記を書いてみた。それから日記才人という日記サイトのリンク集に登録してみたところ、不思議と多くの方に読んでもらえて、いつのまにかそこでランキング1位になることができた。「日記才人」がなくなってからは「テキスト庵」という手動で更新報告するサイトにも登録していたが、そこでもランキング1位になることができた。しかし、いつのまにか人々はツイッターなどに移動してしまい、だんだん自分が時代遅れになってしまったことにオレは気が付いた。

 テキスト庵に登録したことでオレは日記書きさんたちのオフ会にも参加した。その時に知り合った方々とは今でもネット上での交流が続いている。オフ会で感じたテキスト庵の世界は、どちらかというと自分がかつて経験したパソコン通信の世界に近かったかもしれない。そしてどちらももう過去の文化となってしまった。

 オレは「はてなダイアリー」というところで暴言日記とは違った形で日常のことを書いてきた。20代の頃の恋愛を語った「夏の日編」、そして家族のことを書いた「父と暮らせば」そうしたプライベートな文章は「はてなダイアリー」がサービスを休止した後もはてなブログに引き継がれたので今でも読むことができる。たぶんオレが死んだ後もはてなのサービスとともに残るだろう。そういえば昔ホームページニンジャというソフトで作成したホームページも、もう更新できなくなったがniftyのWEB上に残存しているのである。オレが昔書いた文章はそこにも残っている。

 カクヨムで他の方々が書いた文章を読んでいて思うのは、もうオレが完全に時代の流れに乗り遅れたということである。「書き手」としての自分はとっくに通用しなくなっていたのだ。他の方々のように面白い文章はもう書けないし、もちろんオレの文章を読んだ人もきっと「つまらないなあ」とそのまま素通りしてしまうのだろう。たぶんオレにはもう「誰かの心を激しく揺り動かせるような文章」は書けないのだろう。

 大学のまだ一回生だったころ、オレは文芸部の後輩に会ってそこで新入部員のことを聞かされた。オレの3つ下だからオレが高校を卒業してから入学したことになる。なんでも彼女はオレの書いた作品の大ファンだという。そういう人がいたことにとても感激したことを覚えている。もしもそのことがなかったら、オレはとっくの昔に文章を書くことをやめていただろう。大学時代、オレはその3つ下の後輩からたくさん手紙をもらった。オレは多部未華子さんという女優が好きなのだが、彼女はそんな雰囲気の不思議系の少女だった。彼女はずっとオレの作家デビューを期待してくれていた。だからオレがこうして本気でその夢を目指さないままに終わってしまったことを一番残念に思っているのは彼女かもしれない。

 すぐれた感性というのは天性のものである。彼女は今、いくつかの大学の講師として漢文学や日本語表現についての講義を持っている。その一方で短歌雑誌に毎月のように作品が掲載される常連でもある。たぶん「文学」ということに対しての天賦の才は、オレよりもずっと豊かに持っているはずだ。そんな彼女がどうしてまだ高校生の頃に書いたオレの小説を好きになってくれたのだろう。それは今でもオレが一番不思議に思うことである。

 オレはまだしばらくはしつこくこのブログを書いているだろう。オレが書き続けてることはたぶん無駄な抵抗であり、単なる自己満足なのだとわかっている。 

 本気で目指さなかった夢は絶対にかなわない。夢を実現できなかったオレはそれをこうして受け止めるしかないのである。


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