2011年03月09日(水) |
大学に合格した君たちに贈ることば |
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人生の中で一番幸福だった瞬間は?と問われれば、オレは大学に合格が決まったその時だった即座に答えるだろう。長時間の受験勉強から解放され、新生活への期待に胸を膨らませるそんなワクワクするような気持ちだったあの時を思い出す。公衆電話から家に電話を掛ける前に、母校に電話を掛けて恩師に合格を伝えた。その後で家に掛けると電話の向こうで母が即座に「ウソやろ!」と言ったっけ。息子が合格の報告をしているのに「おめでとう」ではなくて「ウソやろ!」だなんてオレはよほど信頼されてなかったのである。
今年も国公立大学の合格発表が始まり、オレが抱える浪人生たちも次々と合格を決めて学校に報告にやってきた。先生方から次々と「おめでとう!」と声を掛けられて本当に幸せそうなその姿を見ると、まるで自分のことのように嬉しくなる。
32年前のこの頃、自分は何をしていただろうか。大学合格を決めた春休みにオレは信州に旅行して、高校生の頃に何度か出かけた諏訪湖ユースホステルに赴き、その主である長崎光彦氏に合格と京都での新生活のスタートを報告した。旅に出たのはその一年前、高校2年から3年になる春に2泊3日で自転車で潮岬まで往復して以来のことであった。受験勉強のために封印していたさまざまな楽しみをオレは満喫した。旅をすること、本を読むこと、自転車で遠くへ出かけること・・・。
DVDを山のように借りてきて映画を見まくるのもいいだろう。一人カラオケで何時間も熱唱するのもいいかも知れない。ドラゴンクエストを不眠不休でやるのもいい。食べ放題に出かけるのもいい。そうした快楽はすべてがんばった自分へのご褒美なんだから。
しかし、人生の目的はこれで達成されたわけではない。あくまで今この瞬間は一つの通過点に過ぎないのだ。残念なことだが、大学生活も後半になれば「シューカツ(就活)」というものに君は時間を奪われてしまう。その時期はオレが大学生の頃は4回生の秋からだったが、どんどん前倒しになって今は3回生の秋くらい、つまりオレが学生だった頃から比べれば一年以上前倒しになってしまっている。全くもってひどい話である。大学生活を楽しめる時間が半分くらいしかないじゃないか。
ある難関大学への合格を決めた生徒が、父を伴ってわざわざオレのところに挨拶にやってきた。「息子が合格できたのは先生のおかげです」と言われてオレはあわててそのことばを遮った。「全然そんなことはありません。合格はあくまで本人の努力の賜物ですから!」そう、がんばったのはまぎれもなく受験生本人であり、我々教師はほんのわずかそのお手伝いをしただけである。そして、感謝されているようではまだまだオレは一流じゃないなあとしみじみと思ったのである。超一流の教師とは生徒に最小限のきっかけだけを与え、生徒はそのきっかけをもらったことにも気づかずに「すべて自分でやった」と信じて合格を勝ち取るのだと思うからだ。
オレは50歳になった。22歳の時に大学を卒業してそれからずっとオレは教師の職に就いて多くの生徒を送り出してきた。その中にはもちろん素直な生徒ばかりではなくて、オレに暴言や罵倒を浴びせた生徒もいた。もちろん聖人君子にはほど遠いオレのことだから、時に感情的になり激烈なことばで応酬してしまうこともあった。しかし、今思い返せばそのすべてがなつかしい。
東京での就職活動が不調に終わり、京都のアパートを引き払って田舎教師として大阪の実家に帰ったオレは、就職浪人して出直すつもりで教師としてスタートした。今も心の片隅にはほんの少し浪人気分がある。今の自分は本当に自分が目標にした姿ではないと思う。教師という仕事を経験した自分は次に何になれるのか。それはまだわからないのだが、オレは今の自分をまだ通過点にいると思っている。自分の今の姿が決して「完成品」などではないとわかってるからこそ、まさに発展途上の君たちのことを愛しく思うのである。
人生の大きな難関の一つを超えた君たちの姿を見て、オレは32年前の自分の姿を思い出してとてもなつかしく感じるのである。君たちの前には無限の可能性とたっぷりの時間が用意されている。しかもありあまる若さがある。老いが進んで体力の衰えを激しく感じるようになったオレは本当に君たちがうらやましくてならない。
卒業式はちっともおめでたくなんかない。それは学校という平和な世界から弱肉強食の外界に出て行くことだからだ。努力が正当に評価されたちっぽけな世界から、不正渦巻く社会に飛び出すことだからだ。しかし大学合格はとってもおめでたいことである。志望校に入学できるということは、君たちの努力の結果がしっかりと実を結んだということだからだ。どうか今の気持ちを忘れずに全力で大学で学び、自分の人生の究極の目的が何であるのかを見つけて欲しいのである。
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