江草 乗の言いたい放題
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2010年07月23日(金) サドルになりたかった少年        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan

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 「変態」といえば彼のことを思い出す。高校生の時に親しかった彼である。彼は確かに勉強もよくできたが、それ以外の部分でどう考えても尋常ではない部分があった。そんな彼の思い出を今日は語りたい。
 
 彼は「ぼくはサドルになりたい」と何度か口にしていた。なぜ「サドル」なのか。彼に言わせれば「サドル」はこの世のあらゆるものの中でもっとも女性の股間に近い場所に存在するからだという オレが「もっとも近い存在というのはパンティじゃないのか?」と突っ込むと、彼は「そんな情けない布きれにはなりたくない。サドルのような適度に硬くて時に軟らかい、ぼくはそんな男らしい存在でありたいのだ」と意味不明なことを語っていた。

 オレの通う公立高校には自転車通学の生徒が多かった。オレも、そして彼も自転車通学だった。そう、自転車で通学する女子高生はどうしてスカートを広げてサドルの上にすっぽり重ねるのだろうか。そうして自転車をこいでると、ふんわりとスカートが放射状に広がってなんとも優雅である。そしてサドルにはスカートの生地は全く触れず、その中身の部分だけ、すなわちパンティだけが接触するのである。もちろんスカートの下にブルマをはいてる女子もいたので必ずしもいつもパンティが接触するわけではないのだが。なぜそんなはしたない座り方をするのだろうか。つい最近、ある成人女性にその疑問をぶつけると「スカートにしわが寄るから」という答えをいただいた。しかし、ただそれだけの理由であんな乗り方をするのだろうか。もしかしたら股間がスカートの生地越しではなくて直接サドルに接触することは何か気持ちいいことでもあったのだろうか。オレには全くわからないのだ。

 彼はある女子生徒が好きだった。その女子生徒も自転車で通学していた。オレはその女子生徒のことを特に意識はしていなかったが、彼は好きで好きでたまらないようだった。人の好みはそれぞれだ。「蓼食う虫も好き好き」というコトバもある。美女と野獣という組み合わせもあれば、美男と野獣というカップルもある。そこそこ成績も良く、どちらかというと貴公子然とした彼の風貌を思えばかなりその中身との落差は大きかったのだが、彼はまぎれもなく「変態」だった。かなり脳内を妄想で充満させていた当時でさえそう思ったのだから、彼はよほどの変態だったのだろう。

 彼の「変態行為」というのは、ついさっきまで女子生徒の股間に密着していたそのサドルに顔を近づけて「匂いをかぐ」という行為だった。彼はオレに向かって「すまん、そこに立ってぼくを隠してくれ!」と懇願し、それから思いを寄せている女子生徒の自転車のサドルに顔を近づけて、その匂いをかいだのである。その時に彼が見せた恍惚の表情をオレは忘れられない。彼は言った。「ボクはサドルになりたい。どの自転車のサドルでもいいということじゃない。この自転車のサドルになりたい。」そう言ってさっきまで匂いをかいでいたある女子生徒の自転車を指さした。

 一度羽目を外してしまうともう人間は後には戻り得ない。彼もそうだった。それからは彼は毎朝、サドルの匂いをかぐことが日課となった。そしてオレはそんな彼のためにいつも盾となって、彼の変態行為が第三者から見られないようにかばってやったのである。彼の話では「日によって微妙に匂いは違う」ということだった。もしかしたら匂いから彼はその女子生徒の体調や女体のある周期まで把握していたのかも知れない。なぜ当時のオレがそんな変態行為を手伝ったのか。友人として彼の変態行為を止めるべきだったのか。もしも止めていればその後の悲劇もなかったのだ。彼はオレに向かって言った。「このサドルはぼくだけのものだ。このサドルの匂いを勝手にかぐことは絶対に許さない!」と強く言いはなったのだ。オレは心の中で「いや、そんな変態おまえだけやから」とつぶやいていた。

 そんな彼の至福の時は、突然に終わりを告げた。自転車置き場には入り口が二つあって、自転車を置いた生徒はロッカーに近い方の入り口へと向かうという関係で、そっちの入り口だけしか通常は人が出入りしない。だからオレはその入り口の方向からの視線だけをさえぎればよかったのである。まさかもう一方の入り口から、そのサドルの持ち主の女子生徒が突然入ってくるなんて思いもよらなかったのだ。

「きゃああああああああ」

 その悲鳴は周囲に響き渡った。彼がサドルの匂いをかいで至福の時を迎えていたのを、そのサドルの持ち主の女子生徒が目撃してしまったのだ。自分のサドルの匂いを懸命にかいでいる変態を許せるような寛大な女性がどこにいるだろうか。ただ、オレは卑怯にも「どうすれば自分は変態の仲間と思われないか」という自己保身だけを考えていた。だからそこでオレは突然彼を裏切ったのだ。たった今振り向いて気づいたという芝居をしたのである。

「うわっ、こいつ変態やん!」

 彼は激しくその女子から叱責されることとなった。オレは共犯者でありながら全くクールに振る舞い、変態仲間にされることを免れた。オレは一度もサドルの匂いをかがなかったから、そういう意味では変態ではないのだが、彼の変態行為をやめさせなかったという責任は友人のオレにもある。本来なら共犯者として彼女の責めを受けるべき自分は、彼を変態呼ばわりすることでその責めを免れたのである。

 今でもオレは、スカートをすっぽりとサドルにかぶせて自転車に乗ってる女子中学生や女子高生を見るとサドルの彼のことを思い出す。「ぼくはサドルになりたい」と語った彼は今はどうしているだろうか。念願叶ってサドルになれたのだろうか。


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