江草 乗の言いたい放題
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2008年07月02日(水) 書評『戸村飯店 青春100連発』 〜瀬尾まいこ        ブログランキング投票ボタンです。いつも投票ありがとうございます。m(_ _)m 携帯用URL by Google Fan

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 オレは瀬尾まいこさんのファンである。作品はほとんどすべて読んでいる。デビュー作の「卵の緒 (新潮文庫 せ 12-2)」も好きだが、「幸福な食卓 (講談社文庫 (せ13-1))」もいい。とにかく彼女の作品にはかなりの思い入れがあるのだ。確か「卵の緒」が坊ちゃん文学賞を受賞した年、芥川賞は綿矢りさ、金原ひとみだったと思う。そのときにオレは「どうして瀬尾まいこじゃないのか!」と思ったのである。しかし、芥川賞というのが基本的にイカサマの新人賞であり、「この程度の作家なら出てきてもオレたち先輩の牙城を脅かすこともない」というふざけた審査員たちの投票によって選ばれている以上、駄作が選ばれることもまた当然のことである。オレの予想したとおり、綿矢りさは大学在学中に一本しか小説を書かなかったし、それはオレにとって「とりあえず読んだけど時間の無駄」というシロモノだった。オレの書いた小説「 イノコ」の方が100倍すばらしいぜ。

 芥川賞を取る取らないとは全く無関係に瀬尾まいこさんはその後も作品を発表し続け、それはどれも不思議な味わいのある作品ばかりだった。読んでいるとなんとも言えない優しい気持ちになれるのだ。そう、彼女の小説には読者を幸福にする力があるとオレは思ったのである。そしてこれこそ書き手として自分が目標としたことではないのかと。

 瀬尾まいこさんは大谷女子大学出身、南河内のど真ん中である。ウィキペディアによれば1974年生まれだと言うことだから、オレが南河内の片田舎で教壇に立っていた頃にちょうど高校生だったことになる。あの頃近鉄南大阪線の車内や、アベノや富田林や藤井寺の街角でもしかしたらすれ違っていたも知れないのだ。少なくとも同じ空気を吸って過ごしていたことは間違いないのである。それもまたオレが瀬尾まいこさんに対して親近感を持つ理由の一つでもあるのだが。

 さて、オレが今回紹介する作品は「戸村飯店青春100連発」である。高校生から大学生へと成長する時期の若者の日常を描いた青春小説である。イマドキの高校生くらいの男の子がどんなことを考えてるのか、それがとても活き活きとリアルに描かれるのだ。読んでいると自分も高校生に戻ったような気持ちになるのだ。そうして作品世界に引き込まれていくのである。

 さて、この作品のストーリーを語ってしまうと、これから読む人にとってかえって迷惑だろうし、少なくとも最後まで読んで「おおっ!この展開は・・・」と思わせるところに面白さがあるわけだからネタバレになるようなことは書けないが、この作品の大きなテーマが関西と関東の比較文化論であることは間違いない。コテコテの関西人である主人公の兄弟が繰り広げる日常こそがまさに関西人にとっての普通の毎日なのであり、それは多くの関西以外に居住する読者にとってはテレビの中で演じられる喜劇にしか思えないのである。関西の特殊性は関西人が関西以外に出て行ったときにはじめてわかるのだ。そしてそこで感じる違和感もまた不可避なのである。オレは会社訪問で東京に出かけた大学4回生の秋のことを思う。いくつかの会社を訪問し、山手線の電車にゆられながらふと「やっぱり京都に帰ろう」と思った時のことを。さだまさしの「距離(ディスタンス)」というオレの好きな曲があるのだがその中に「もうそろそろ帰ろうと、帰らなきゃいけないと、思いはじめていたんだ」というフレーズがあって、ちょうどその時の自分の気分はそれに近かったのかも知れない。

 本の帯には「さわやか爆笑コメディー」と記されている。しかし、それはこの作品の性格を語ってるとは言えない。ただのコメディーにはこんなに精密な人物描写は不要である。そう、彼女の描く少年の内面には驚かされるのだ。読んでると、主人公たちの考えてる心の内側が手に取るようにとてもよくわかるのである。そして、書くことを志す自分はいつも「自分はこんなにちゃんと観察して書けるのか」と打ちのめされたような気分になるのである。悩んでいたり苦しんでいたりする少年の葛藤を彼女は見事に描ききる。面白さにぐいぐい引き込まれて読んでいるうちに息もつかせぬペースでストーリーが展開し、気がついたらもう最後のページまで来ている。読み終えてしまうのが惜しくなる、そんなすばらしさがこの作品、「戸村飯店 青春100連発」の中に詰まっている。いったい何を連発するのか、それはぜひ読んで確かめて欲しい。

 そういえば川上未映子とかいう作家が芥川賞をもらった「乳と卵」という作品では、関西弁の品位をぶちこわすような変な日本語が使われていた。オレはその日本語レベルの情けなさを深く悲しんだものである。なんなんだこの饒舌体もどきの超悪文は!と嘆いたのである。国語教師の自分にとって、とうてい国語の問題になんか使えないシロモノだったぜ。

 瀬尾まいこさんの小説の中に出てくる関西弁は、由緒正しい大阪の下町の、今の子どもたちが使っている正調関西弁である。間違いなくオレが子どもの頃にしゃべっていたようなコトバである。だからこそオレは彼女の作品を愛するのだ。まるで自分の過ごしている世界をいとおしむように。そしてこんなすてきな物語を紡ぐことのできる方にあこがれるのである。

 瀬尾まいこさん、いつかあなたに直接本の感想を話したいです。




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