あの不二家が、プリンの消費期限を社内基準よりも長く表示していた(ただJASの許容範囲内)問題で、消費期限を延長されて出荷されたプリンが約10万個もあったと聞いてオレは大いに悲しんでいる。オレにとってプリンを冒涜することは許されないことなのだ。オレはプリンが好きだ。フリンは嫌いだがプリンはとにかく大好きだ。そんなオレのプリンにまつわる思い出を書いてみようと思う。
まだ幼い頃、オレは母が時折作ってくれるプリンが好物だった。ただ、家で作るプリンというのは喫茶店のようにお皿にうまくぶちまけて直立したものではなく、カップに入ったのをそのまま食べたのである。まだそのころはグリコのプッチンプリンなどは世の中に存在していなかったはずである。せっかくプリンを作ってもらっても、一人分としてカップに入ってるのは少しだった。「腹一杯プリンを喰いたい」という夢はなかなか叶わなかったのである。子どもの頃の自分には腹一杯喰いたいものがいくつもあった。たこやき、イカ焼き、お好み焼き、ソーメン、ざるそばなどである。そうした夢がすべて叶ったのは大学生になって一人暮らしをするようになってからのことなのだが。
一人暮らしをするようになったオレは、生活費を浮かせるために自炊中心の食生活をするようになった。トンカツやお好み焼き、ジンギスカン風肉野菜炒めなどの料理をオレは得意としていた。そんなオレがたまにデザートを作ると、結局一人暮らしだから一人で喰うことになるのだが。プリンやゼリーやフルーチェをどんぶり一杯に作って食べていたのである。プリンを作る場合、ハウスのプリンエルかプリンミクスのいずれかを買うという選択肢があった。どちらかが牛乳を入れて作る方で、どちらかがお湯だけでできるという違いだったと思う。一箱買うと4人分くらいあるわけだが、一人暮らしなので結局どんぶりに作って一人で喰うのである。食器を洗うのが面倒なのでどんぶりも使わずに、鍋をそのまま冷蔵庫に入れたこともある。さすがにプリンで腹一杯とはいかないまでも、そうやってたっぷり喰えるということにオレはかなり満足していたのである。
さらにオレは新たなるチャレンジをしてみた。つまりプリンの新たなる味の開発である。プリンを作る際に何か他の食材を混入することでよりおいしくできるのではないかという工夫だ。まずインスタントコーヒーの粉を入れてコーヒープリンを作ってみた。なかなかおいしい。同様にココアプリンというのも作ってみた。イマイチだった。コーヒーに入れるクリープを入れてみるというのも試した。なかなかクリーミーな味わいのプリンができてかなり気に入った。しかし、結局オレは何も入れない普通のプリンに最後は戻った。なぜなら、それがオレの一番好きなプリンの味だったからである。オレは普通のプリンが好きだったのだ。ついでに言うならあのプリンの上に掛かっているカラメルソースも好きだ。大学のサイクリング部にいたオレは、春合宿や春ラリー(他の大学との交流会)の時にもしばしばプリンを作った。春はまだ寒いので冷蔵庫がなくても外に置くだけで十分に冷やして固めることができたからである。
大学を卒業してオレは実家に戻ってきた。もう自炊する必要はなくなった。そしていつしかプリンを食べることも忘れていた。もう社会人になったオレにわざわざ母がプリンを作ってくれることなどありえないことであり、どうしても欲しかったら店に買いに行けばよかったからである。しかし、スーパーで売られているプリンはなぜか自分が作ったものほどにはおいしくはなかった。その理由は未だにわからない。なぜ一人暮らししていた頃に作ったどんぶり一杯のプリンがあんなにおいしかったのか。
公立高校に勤務するようになったオレの行動範囲内にはビッグボーイというファミリーレストランがあった。職場にもほど近かったので時々利用したのだが、そこにはサラダバーがあって、なんとその中にはプリンやゼリーというデザートが用意されていたのである。オレはものすごく食い意地の張った人間である。取り放題のサラダバーではかなりどん欲に喰って喰って喰いまくるのである。そのサラダバーにこともあろうにプリンがあるのだ。オレが食事の後でプリンばかりお代わりしたのは言うまでもない。オレはいつも、そのサラダバーのコーナーに存在するプリンが全滅するまで喰いまくった。そんなオレを「食い意地の張った馬鹿」と思う人も多いだろう。しかし、プリンもおれのようにプリン好きな人間に喰われてこそ本望なのである。他の有象無象どもに喰われるくらいならオレが全部喰って消化してやるのである。長いことプリンに飢えていたオレにとって、ビッグボーイというのは数少ない貴重なプリンを喰わせてくれる店だったのだ。
それから長い年月が過ぎた。ビッグボーイは親会社であるダイエーの経営不振に巻き込まれてしまった。確か煽りを食って売り飛ばされたのじゃなかっただろうか。その中でおそらく収益のプラスにならないプリンは切り捨てられたのだろう。先日久しぶりに行ったビッグボーイのサラダバーのコーナーには、他のファミレスとたいして変わらないレタスやコーンやブロッコリなんかが並んでいた。もうそこにプリンはなかったのである。オレは食事時にビッグボーイを選ぶという理由をこれで永遠に失ったのだ。これからもオレはプリンを食べ続けるだろう。しかし、大学生の時に作って食べたあのどんぶりプリンの至福を超えるようなプリンに出会える自信はない。息子もオレに似てプリンが好きである。これもまた宿命である。息子はオレよりも贅沢で「焼きプリン」が好きだったりする。
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