オレはそのとき、南海高野線の三国ヶ丘駅近くの踏切をクルマで通過するところだったのである。なぜか道路はかなり混んでいて、踏切を渡った先の道路にもクルマが数珠繋ぎになっていたので、オレは踏切を通過せずに待っていた。前方に見える渋滞の最後尾と遮断機のバーの間にはかろうじてクルマ一台分ほどのスペースがあるかと思われたが、渡ったところで渋滞しているわけで、オレは待つことにした。
そのときである。オレの後ろにいたエルグランドが急に右に出てきて、オレに追い越しをかけて強引に踏切を渡ろうとしたのである。よりによってオレの車の前に割り込もうとするのである。なんて無礼なヤツなんだ。オレをいったい誰だと思ってるんだ。
エルグランドと言えば日産の1BOXの中では一番贅沢な車種である。ベンツに乗ってる人間がこの世でもっとも運転マナーが悪く迷惑駐車もし放題だと世間ではよく言われるが、(それはおそらくヤクザが乗ってることが多いからだが)エルグランドに乗る輩も自分をワンボックスカーの帝王だと勘違いしている傲慢なヤツが多い。その傲慢さが、オレの前に割り込むという暴挙を起こさせたのである。
オレは瞬間的に不愉快の頂点に達した。そして、素早くFTOを発進させて踏切を渡り、渋滞の最後尾にクルマをつけた。哀れなことにオレの前に割り込もうとしたエルグランドは、そのまま踏切のど真ん中に立ち往生する結果となったのである。そのままバックして遮断機の手前に戻ることができれば無事に生還できるのだが、残念なことに後続車が前進していて、エルグランドの戻るスペースは完全に失われていた。その無礼者は踏切のど真ん中に取り残されるという危険な状況に陥ったのである。
今ここで遮断機が下りて電車が来れば、確実にそのエルグランドは逃げ場を失って粉砕される。オレの心に一瞬「ざまあみろ」という悪魔が舞い降りた。今もしも電車が来たら、ヤツにはクルマを放棄して逃げるという方法しか残されていないのである。しかし、エルグランドは見事に脱出した。なんと、対向車線を逆走する形で踏切をそのまま渡ってしまうという荒技である。そして、オレのクルマの横に並んで、窓を開けて文句をつけてきたのである。オレは馬鹿の相手はしたくないので無視していた。そこへ対向車が来た。対向車のドライバーは真正面にこちらを向いたエルグランドが通せんぼしてるのでクラクションを鳴らした。馬鹿はそれを避けるために右折して、線路に並行した道に入り込んだ。そのとき、オレの前のクルマが動き出したのでやっとのことでオレは長い信号待ちから解放されてクルマを発進させた。
あの無礼なエルグランドがそれからどっちの方向に行ったのか、どんな馬鹿が運転していたのか、そんなことはどうでもいい。ただ、その馬鹿がオレの前に割り込もうとしたとき、オレの心に殺意が芽生えたことを100%否定するだけの自信がオレにはない。あのとき、「舐めとんかコラ!」とクルマを発進させたオレは悪魔だろうか。そんなときは黙って割り込みを許すのがドライバーのつとめだろうか。いずれにせよ、あのエルグランドのドライバーは赤いFTOのことを生涯忘れないだろう。なんせ自分の絶体絶命に追い込んだ天敵だからだ。
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