2005年05月26日(木) |
オレはおまえを絶対に許さない! |
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オレは帰りを急いでいた。早く帰らないとプロ野球中継が終わってしまうのだ。中間試験の採点をしていたらかなり遅くなってしまった。かなり焦ってオレは夜道を飛ばしていた。前方の青信号が変わらないうちに交差点に進入して右折しないといけない。オレはその交差点の左右の横断歩道が点滅信号になったのを確認して速度を上げた。あと100mほどだ。
もしかしたらオレのクルマはその時に法定速度を超えていたかも知れない。いや、オレのように日頃ルールを守ることを説く人間にとってそのようなことはあってはならないことだ。まあそんなことはどうでもいい。速度なんて、メーターを見ていない限り関係ないんだ。もう20年近く前のことだが、名神高速でパトカーに停められた時にオレは警官から「何キロ出していたんだ?」と訊かれて、「前をしっかり見ていてメーターを見る余裕がありませんでした」という名言を残している。まだオレが若気の至りで暴走していた頃だ。当時の愛車はオレの筆名の由来ともなった日産のパルサーEXA/Eだった。わずか830キロという軽量ボディのおかげで吹っ飛ぶように加速してよく走ってくれたぜ。
その直後にでオレは視界の片隅に自転車を捉えた。交差点までは50mもない。なんと交差点の右側から、信号無視して横断歩道を渡ってくる自転車に乗ったOL風の若い女を発見したのだ。
「ぐわっ!」
オレは急ブレーキを踏んだ。なんで左からクルマが猛スピードで走ってくるのに信号無視して渡るんやボケ。
もちろんそこでオレには、速度を落とさずにその馬鹿を粉砕するという選択肢もある。悪いのはその信号無視馬鹿女であることは間違いないからだ。しかし日本の道路交通法はクルマにとって圧倒的不利に出来ていて、その馬鹿女が信号無視という大罪を犯していても「死ねば官軍」的な所があって、たちまちオレは殺人者としてしょっぴかれ、業務上過失致死という罪名で懲役刑を喰らったり仕事をクビにされたりするのだ。たかだか一人の馬鹿を葬るためにオレがそんな目に遭うわけにはいかない。
クラクションを盛大に鳴らしながらオレはタイヤの痕を地面に刻印して必死で横断歩道のところに少しはみ出して停まった。運転の上手いオレだからちゃんと停まれたのだ。視力のいいオレだから夜でも視界の片隅に自転車を発見できたのだ。その信号無視馬鹿女が轢かれずに済んだのは、たまたま通りかかったのがオレだったからという僥倖の産物なのだ。
自転車はオレが停まるのが当然とでもいうように悠然とオレの前を少し膨らんで横切っていく。オレはドアをあけて「ぼけ〜!何さらすねん」と怒鳴ってクルマから飛び降りたが、その馬鹿女は急に速度を上げてダッシュして走り去った。仕事に疲れてぐったりしてるオレには走って追跡する気力もなく、下手に追いかければそれこそ、オレが女性に乱暴する無法者と思われてしまう。
オレはやりきれない思いでクルマに戻った。もちろん目の前の信号はとっくに赤になっている。
「信号一回分損した・・・」
馬鹿女のせいで、帰宅する時間が3分ほど余計に掛かることになっちまった。なんてことだ。あの女、オレは絶対に許さない。今度見つけたら後ろから耳元でクラクションを鳴らしてびびらせてやるぜ。
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