| 2003年12月24日(水) |
クリスマスイブ・特別小説(もどき) |
『サンタの気まぐれによる、一女生徒の幸福論』
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あー、もしかしてこれって夢かなー? だって、私の目の前で、あのナガツキ先輩が、手ずからケーキ切り分けて、お茶淹れてくれてるんだよ〜!? …まさかホントに夢じゃなかろうな?よし、一発抓ってみよう、えい。
「痛っ!」
いけない、思い切りつねりすぎたわ、思わず悲鳴と涙が。
「大丈夫?頬っぺた抓ったりして、どうかした?」
赤くなってるよ、と、ナガツキ先輩が、ちょん、と私の頬に触れた。
…死ぬ、死んでしまう、本気でこのまま昇天できるよ私…。
ああ〜、でも、頬っぺた抓って痛いってことはこれは夢じゃないのね〜。 「君はどうして、学校に残ったの?」 ふわんとした甘い香りの向こうで、先輩がそう尋ねてきた。 「ああ、聞いてもいいなら、だけど。僕は、日本まで帰るのは少し遠いから、毎年残ってるんだけど」 ナガツキ先輩の出身って、日本なのよね。東の端っこの島国。そっか、遠いんだー。イギリスからじゃね。 「ええと、私は、あの、両親が近所の商店街で福引引いたら『南の島の魔法リゾートでクリスマスとお正月を過ごすツアー』が当たったらしくて。えーと、お恥ずかしながらうちの両親万年新婚ラブラブでして…」 「いいじゃない、ご両親の仲がいいって、素敵だと思うな」 どうぞと、先輩が私の前にケーキのお皿とティーカップを差し出してくれた。 そういえば、『ナガツキ先輩のお茶』も、全校生徒の憧れなのよね〜。ポッター先輩たちとか、エヴァンズ先輩とか、そういう人たちはいつも先輩とお茶の時間を楽しんでるらしいけど…そんな有名人の集まり、普段なら一般生徒が近寄れないよ…。いいのかしら、私、こんな幸せで…。 休暇が終わって、ナガツキ先輩と休暇中寮に二人きりでした、握手もしたし頬っぺた触られたし、一緒にお茶もしました、なんて言ったら私、先輩のファンクラブのお姉さま(お兄様もいるらしいけど)に呪われそう…。
「その紅茶、僕の好みで葉をブレンドしてあるから、もしかしたらちょっとクセがあるかもしれないけど」
はい?っていうことは、何ですか、これは、あれですか!? 噂に聞く、ポッター先輩たちしか飲んだことのない『ナガツキ先輩のスペシャルブレンド』って奴!? うわ、どうしよう!!こ、これは最後の一口まで味わって飲まないと勿体無いわ! 「い、いただきますっ!」 カップを掴むと、私はその熱い紅茶をぐびっと一口飲んだ。 …自分が猫舌なのも忘れて。湯気の立つ熱〜い紅茶を、一気に。
「…あっつーい!!」
いや、そうなって当然なのよ、普通に考えればさ。 猫舌じゃなくたって、熱いお茶を一気に飲めば口の中火傷するっての。 そんなことにも考えが及ばないくらい舞い上がってたというか…。 「大丈夫!?」 ナガツキ先輩が慌ててテーブルから身を乗り出して、「見せて」と、私の頬にまた手を触れた。 (ギャー!!) 「だ、大丈夫ですう〜っ!!」 何かもう、自分で何をやってるのかも分かんないわ、私。 立ち上がった拍子にテーブルの足を蹴飛ばして、揺れたテーブルからティーカップが床に落ちて割れる。 「わあああ、カップ割っちゃったごめんなさい〜!!」 「や、いいよ、カップは魔法で直せるし、それより火傷しなかった?」 ああ、ホントにこの人、何でこんな素敵な上に優しいんだろ…。
「…大丈夫?何だか、顔が、赤いんだけど…熱でもあるかな?」
違います先輩と接近してるからです〜、とも言えず、「大丈夫です」と応えたつもりの声は、 「らいろーぶれふ〜」 で。…とうとう呂律まで怪しくなったよ、私…。 「ちょっとごめんね」 そう言うと、先輩は私のおでこに手を当てた。 ほら、よく熱を測るときにやるじゃない、あれよ。 手を私のおでこに当てたまま、先輩は私の顔との距離十数センチの位置で、「何かやっぱり熱いよ…?」と心配そうな顔をしている。 どうせ熱測ってくれるなら、おでことおでこをこっつん、の方が…なんて思うでしょ?無理だからそんなの!! そんなことされた日には、本気でそのまま死んじゃうから!!
…っていうか、さっきから騒ぎすぎたせいなのか、何だかホントに目が回って…さ、酸欠…? ああ、ダメ、倒れる…。
―目を開けると、真っ白い何かと真っ黒い何かが、私を覗き込んでいた。 「お、起きたみたいだな」 「主さま、この娘、目が覚めたようです」 あるじさまー?誰、それー?っていうか、この白いのと黒いの何ー?
「あ、良かった。急に倒れるから心配したよ」
もう具合はいい?と、ほっとしたように笑いながら、ナガツキ先輩が私を覗き込む。
あああー!!そうだ、先輩の前で何たる失態ー!!
ん?待てよ、先輩がいて、その先輩を「あるじさま」と呼ぶ人がいて…。 先輩のことそんな風に呼んでいて、しかも白と黒って…。
「先輩のシキガミさんたちー!?」
白天さんと黒曜さん?だったっけ、ナガツキ先輩の『シキガミ』。こっちでいう使い魔みたいなもんだとかで、いつも先輩の側にいて、で、そのお二人もホグワーツの有名人なのよー!?
「すいません、ホントにすいません、もう平気です…!!」
慌てて起き上がって立ち上がろうとした拍子に、私はまたテーブルの足に小指をぶつけた。 「〜…っ…!」 その痛みによろめいて、そしたらソファーに足を取られて、後ろへ転んだ。そして、床に後頭部を打ち付ける。 ああ、今でもバカなのに頭打ってこれ以上バカになったら救いようがないじゃないよ、私…。
「…大丈夫か、このお嬢ちゃん…」 「足元がどうにも危なっかしいな…」
式神さんたちの呆れたような声を聞きながら、私の意識はまた遠くなっていくのだった。
明日に続く。
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