| 2003年12月25日(木) |
クリスマス・特別小説(もどき) |
『サンタの気まぐれによる、一女生徒の幸福論』
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何か、さ。 私は別に美人なわけじゃないし、実技もペーパーも落第ギリギリってほど悪くはないけど、かといって首席争いなんてものとも無縁な、平均的な出来だし、取り得と言えば明るいところくらい? でも、あれよね、とりあえず悪いことはしないで(ちょーっとばかりの規則違反はしましたが)良い子にしてたら、サンタクロースってホントに来るんだなあ、と、このクリスマス休暇中、つくづくそう思った。
だってまさか、私がこんなにナガツキ先輩や式神さんたちとお近づきになれるなんて思っても見なかったもの! これをサンタの贈り物といわずして何という!!
朝昼晩、グリフィンの居残り生徒は私と先輩だけだから、って、向かい合ってご飯食べてさ。 (他の寮の居残り生徒?先生方?あー、いるわね、そういや。でも私の視界からは先輩以外シャットアウトなのよ) 式神さんたちにも話しかけてもらってさ。…呆れられてる、とも言えるかもしれないけど、あんまり私がアホだから。 勉強とか、教えてもらったりなんかもしちゃって(これがまた教え方もうまいのよ。学年首席は伊達じゃないわ) 甘いお菓子と、先輩のスペシャルブレンドでお茶をして。
すっごい楽しかったし、学校に残って良かったー!って思ったし。 きっとこんなこと出来るの、この休暇の間だけだろうしさ。休暇が終わって、ポッター先輩たちとか、他の、同級生の先輩たちとか、仲のいい人たちが帰ってきたら、またナガツキ先輩はそういう有名人の輪の中に入っちゃって、私なんかじゃ手の届かない人に戻ってしまうんだろうし。 この休暇前が、ずっとそうだったみたいに。
だから、私は、つい口を滑らせて、言ってしまったのだと思う。
「…私、ナガツキ先輩のことが好きです」
遠くから、見つめているだけで、何だか幸せだったから、この言葉は口に出すことはないと思ってたのに。 「好き」って言ったって、これが憧れに近いもので、ひどく幼い恋情なんだって、自分でも分かってたし。…や、幼いなら幼いなりに真剣なんだけど、何だろう?『恋に恋してる』?そういうのに近い、のかな…? とにかく、言うつもりのない告白だったのに、どうしてかそれは私の口から転げ出てしまって、そして一度飛び出した言葉はもう戻っては来ないわけで。
少しだけ、驚いたような顔をして、ナガツキ先輩は、
「…ごめんね」
と、とても申し訳なさそうに、私にそう言った。
「ごめんね、その気持ちには、応えてあげられない」
はい、フラれちゃいましたー! っていうか、何だか逆にすっきりしたわ。 「いえ、私こそ、いきなりごめんなさい。いいんです、言えただけで」 そりゃあ、ショックといえばショックなんだけど。 でも有名だもの、“ナガツキ先輩は誰の告白も受けない”って。 何か、「好きです」って言葉にして、すっぱりフってもらえて、良かったなーって言うのはちょっとヘンかもしれないけど、でも良かった。 だけど、ナガツキ先輩の方がすごく申し訳なさそうな、傷つけたかな?って顔をしているから、 「大丈夫です、最初から、玉砕覚悟ですから!」 私は務めて明るい声で、先輩にそう言った。 「むしろ先輩にちゃんと面と向かって好きだなんて言えたことがラッキーですよ〜。みんな告白したくたって出来ないんだから!」 ありがとう、と、ナガツキ先輩がちょっと笑った。
「僕はね、もしかしたら、探しているのかもしれない」
先輩が、誰からの告白も受けないのは、『自分はまだ未熟で、誰かとそういうお付き合いをするよりは、もっと自分を磨いてきちんとした人間になりたいから』なんだそうだけど、でも、ナガツキ先輩が未熟だったら、この世の中の人殆ど、人間の形にさえなれてないような気がするわ…。 でも、それだけじゃなくて、そのもう1つの理由が、『探しているから』なんだって、言った。
「僕の心の、その半身を。どこかにいるのかもしれない、いないのかもしれない。でも、僕の全てをかけてでも守りたいと思うような、そんな誰かを、僕は探しているのかもしれない。そう思うよ」
「運命の相手とか、赤い糸とか、そういうのですか?」 私が尋ねると、「そうだね」と先輩は笑った。 「命あるものは、みんな、自分の半身を求めるように出来ている。うまく出会える人もいる、ずっと探し続けて、結局出会えないかもしれない。それでも、誰でも、連理の枝とも比翼の鳥とも思える、たった一人の誰かを求めている」 「私にも、そんな人が現れるでしょうか?」 ナガツキ先輩は、「もちろん」と、頷いてくれた。
―そんなクリスマスの思い出も、今は遠い日のことになった。 先輩が卒業して、ポッター先輩たちが卒業して、私もホグワーツでの学生生活を終えて。 平凡なりに、楽しい毎日を送っている。
それでも私は時折、学生時代のあのクリスマスの日を思い出す。 少しの胸の痛みと、それ以上の優しい温もりと共に。
「ぼーっとして、どうした?」
顔を上げると、私の『たった一人の誰か』さんが立っていた。 目が覚めるほどの美形じゃない、魔法省のエリートでもない。でも、彼こそが私の『たった一人の半身』なのだと思える。 そしてそれは、とても幸せなことなのだ。
ナガツキ先輩は、今もあの頃と同じ、穏やかに笑っているのだろうか。 そしてその笑顔の奥で、『たった一人の誰か』を探しているのだろうか。もう見つかったのだろうか。
それは、聖なる夜の、一つの幸福論。
fin.
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