Desert Beyond
ひさ



 降り注ぐ午後の光のように

石を削るだなんて、正気か君!?

今の学校に入らなかったら
きっとそう思っていた事だろう。
現に過去の自分を想ったとき
そこいらの岩や石や砂や泥を
ハンマーやらで取ってきて
それを削るだなんて想像すらできなかったと思う。

石を削る部屋を薄片室、という。
今、僕にとって薄片室は癒しの空間。
夜な夜な大きな音で音楽を聴き
グラインダーを回す。
ごう、と響き続けるターンテーブル。
研磨粉を振りかけ、水を弾き
岩石を削る。
じゃりーんがりがりがり。
そう。一心不乱にするのだ。
回る轟音、流れる良音。
外はただ闇が広がるのみ。
非常階段を往くのは誰かだなんて
知る必要もないのさ。
そこはまるで無念無想の境地。
頭の中の様々な煩悩や苛立ちや不安は
石と共に削れていく。

川嵜じいさんを囲む会だった。
誰よりも歩くのが速いじいさん。
今日初めて入れ歯を入れたじいさん。
入れ歯と歯茎の間に
物が挟まって気持悪いと弱気なじいさん。
二次会に参加せずごめんね。
川嵜じいさんは帰ると言ったが
院生と4回生二人と4回生部屋に入ってきた。
4回生部屋では女の子が一人で勉強していた。
院生が、さあ二次会をやろうと言った。
僕は、勉強している人がいるので、と言った。
院生が、だって一人でしょ一人なんやからええやん、と言った。
良識も思いやりもない言葉に
大人気なく怒ってしまった。
ひとりならいいのかよ、と言ってしまった。
4回生の友達が一人、一緒に院生に対して怒ってくれた。


今日こそは早く帰ろうと思ってたけど
結局0時を回ってから漸く帰る段に。




透き通るグラスの水のように



2007年05月17日(木)
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