Desert Beyond
ひさ



 とりめし

今年の四月に同じく編入してきたクラスメート。
もごもごしゃべって前の大学では物理専攻だった。
まだ二十歳そこらの彼は
僕の携帯メルアドを見た瞬間
「キリンジ?」と言ってきた。
好きなアーティストは断然安全地帯という渋さ。
彼のアパートはごちゃごちゃしていて
せまい部屋にあるものを3つ挙げろといわれたら
ベッドとこたつとフィギュアだった。
飲みながら音楽について語り合っていくうちに
呼び名がないのでギクシャクするから
あだ名とかないの?と僕が聞いたら
彼は、「とりめし。」とこたえた。
高校の時に先輩に「鳥飯っぽいから」といわれて
それからあだ名がとりめしになったのだ。
言われてみると確かに鳥飯かどうかときかれれば
まあ鳥飯だな、と思う。
かといって「なあ、とりめし」と話し出す訳にもいかず
今のところ保留になっている。
今日思い出したんだけど
ちょっと酔っ払ってきてから
とりめしは音楽を聴きながら涙が出てきてた。
何も言わずに一生懸命めがねをどかしながら
涙を拭くんだけど、それでも涙が出てきていた。
僕は目もそらさずにそのまま話続けたけど
あの涙はなんだったんだろうな。

今日の朝から岩石を削ってやると意気込んで
「初日遅刻=クビ」の図式を厳しく肝に銘じて
朝8時過ぎに家を出た。
8時半に来いとの事だったのに
8時半、まだ廊下も先生の部屋もうすぐらくて
他の教授たちもまだ来ていないようだった。
忘れられちゃったのかと思っていたら
先生の狭いオフィスで事務をする女の人がきたので
オフィスで待たせてもらった。
事務の女の人は寒そうにしながら
ストーブをつけてパソコンをつけた。
「いつもは九時ごろ来るんです」と言った。
それから珈琲ミルに珈琲豆を入れて
いつまでたっても慣れないという感じで
ごりごりご...りごり...ごりごりごり、と挽いた。
ちょっとすると電話が鳴って(寝坊か?忘れか?)
あと15分で来るそうです、と事務の人は言った。
廊下の向こうから先生の足音が聴こえた時に
事務の人はちょうど熱い珈琲を淹れていて
僕と先生の前には湯気の立った珈琲がおかれた。
少し酸味があって薄そうだけど後味にコクのある珈琲だった。


2005年12月08日(木)
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