女房様とお呼びっ!
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2008年01月13日(日) 15分

体を起こして時計を見ると、5時に少し前だった。
一通りの仕事を終え、床を外れて畳の上にてろりと座るイリコを見遣る。
いつもなら何事もなくこのまんま、茶でも啜りながら帰り支度をするだけだ。

「あすこは何のために空けてあるのかね?」

半間の押入れをぶった切っては高床にして、にじり口程度の間を設えてある。

「うぅーん、ただの意匠でしょうけど、風情がありますね」

安普請のラブホの和室に風情なぞあるものか(笑
あすこに人を追いやって、なぶって遊ぶためにあるんだよ。
それが証拠に、明りとりに見せかけて二方をはめ殺したチンケな格子戸。

「ためしにキミ、入ってごらんよ」

ためすまでもなく、易々納まるのは承知の上だ。
あまつさえ丸めた背の上、まだ20センチほどの余裕さえある。
もっとも、頭は壁に、尻は格子に阻まれて、進退はままならない。
思いがけず囚われて、奴は静かに息を殺す。



かごめかごめの籠の鳥。
童子のようにしゃがみこみ、肉をつつき回すと悶えて妙な声をあげ、
羽もないのにバタバタ騒ぐ、どう足掻いても逃げらんないよ。

ぬるい遊びに飽いて立ち上がり、横合いから鞭を入れていく。
半身しか見えない体を狙い済まして打ち据えるのは、いっそう無残で面白い。
ホントは竹の笞でもあれば、なおよかったのだけど(笑


やがて引き摺り出された囚われ人は、残る半身も染め上げられて弱り果て、、
蹲ったまま波打つ横腹をちょいと蹴ると、あっさり仰向けに転がってしまった。
あらわになった薄い胸板をからかうように、あばらに添って更に打つ。

軽く爆ぜる鞭音に一拍遅れて小さな呻き声、加速する単調なリズム。
規則的な繰り返しが頭の芯をぼぅとさせて、私もいささか酔ってきたようだ。
奴もまた酩酊したか、胸元を紅に染めて、されるがままに伸びている。
どれ、そろそろ介錯してやるか(笑


みぞおちに近く腰をおろすと、既に浅い息がさらに細くなって喉笛が鳴る。
傷跡を探して這い回る手は、快感よりもなお苦痛を恵んで、奴を追い込んでいく。
最期の力を振り絞るように細い脚をばたつかせ、空を掻く痩せた腕が痛々しい。

往生際にふさわしく、その脚を揃えてやり、両手を胸の上に組んでやる。
次第に仰け反る薄い頤(おとがい)を掌で捕らえ、じわじわと力を込めるうち、
わずかに開いた瞼の中で白目を剥きざま、ようやくにしてこときれた。



死体を見下ろしながら、ペットボトルのお茶を飲む。
ふたたび時計に目をやると、時刻は5時を15分まわったところ。
あまりの呆気なさに苦笑しながら、その実、愉快でたまらない。

「よう、火をくれないか?」

悠々と死んだままの奴に声をかけると、慌てて起き上がろうとするのだが、
未だ目の焦点はあわず、弛緩しきった手足は言うことをきかずで難儀している。
もんどりうっては床を這い、やっとのことでライターを手に戻ってきた。

「簡単だよなあ(笑」

笑われて恥じ入ったか、あるいは先の余韻を残してか、その顔は、
中年男のくせにほんのりと上気して、まるで風呂上りのようだった。
 


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