女房様とお呼びっ!
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2003年10月30日(木) 因果はめぐる 1

メールを送信した少し後に、奴からは帰着のメールが届き、
次いで、いつも通りに日付が変わる少し前、定時のメールが着信した。
相変わらず杓子定規な奴だなぁと思いながら、それでも改めての息をつく。
少なくとも、このメール二通ぶんは、手にした今を信じる糧になろう。




> XXでございます。

> こちらこそ、長きに亘りご一緒いただき、ありがとうございました。
> 貴重なお時間をいただき、感謝しております。
> 忘れられない一夜になりました。

> また、醜態をお見せしたことをお詫びいたします。
> ただ、止むに止まれぬ行状でした。
> 私は自律していたつもりでしたが、ただ単に押し隠していただけでした。
> 暴言を吐いてしまい、申し訳ありませんでした。

> 確かに、非常に心苦しくお伺いいたしました。
> 私はまだまだ、主従関係というものの本質が見えておりませんでした。
> **様と体を並べての対話を、甘酸っぱく思い返しています。

> 私がもう少し**様にオープンに話ができたなら、
> 今回のような事態には至らなかったでしょう。
> 我を張ってしまったことを、申し訳なく思っています。
> お詫びの次にあるものに、思いが至りませんでした。

> 私が申し上げたことは、 全て真情です。
> 勿論、申し上げるタイミングや表現に問題があることは承知しております。
> ただそれでも、どうか信じていただきたいと願っております。
> **様は、この世でもっとも私を理解してくださっている方です。

> ご心痛をおかけしたことを、深くお詫びします。
> 自らの限界を知った今、直すべきところは直していこうと、心静かに考えています。
> 思えば、僕の座に安住していたようです。
> 等身大の**様を見つめ、等身大の自分を表していく、そうありたいと願っています。

(後略)

> XXXX 拝




私が知る限り、奴は正直な人間だ。
奴自身、かつて私に寄越したメールの中で、「自分は嘘がつけない人間です」と言った。
その言は、私たちが交渉を始めた当初、奴が自己紹介する中で語られたのだが、
以降、それが覆されたことはない。

ただ、一度奴は小さな嘘をついたことがあって、わざわざ告白するためだけに電話を寄越した。
用件はともかく、私は、奴が自分から電話をかけてきた自体に驚いたものだ。
別に禁じていたわけではないが、奴がそうするのは、恐らく初めてのことだったから。

明かされてみれば、私にとってはあまり意味のない真実だったけれど、
奴としては、嘘をついたという事実に耐えかねて、告白せずにいられなかったのだろう。
つまり、奴は自己申告通り、嘘の’つけない’人間だったわけだ。
だから、私は奴が嘘をつくとは露程も思ってないし、その意味では信じている。

もっとも、このエピソードに端を見るように、
寧ろ正直に過ぎては、ときに短所にもなろうと承知している。
殊に人とあっては、正直に徹することが、そのまま正義たり得ない。
とはいえ、それで私が奴を忌むことはないし、信じられない理由にもなりはしない。



しかしながら、いくら正直な人間でも、自分をこそ誤魔化してしまうことがある。
要は自分に嘘をつくと同義なのだが、他人に嘘はつけずとも、自分にそうするのは意外に容易い。
感情や都合から受け入れ難い真実に蓋をして、自分にとっての本当を拵えてしまう。
この見かけの本当に縋って物言えば、それらは決して嘘ではないのだ。
いずれかその蓋が開き、全ての真偽が問われるにしても。

そして、奴にあっては、往々この罠に陥りがちであることを私は知っている。
それは、今回のことに限らず、来し方を顧みるに起きてきたことだ。

このとき私が恐れていたのは、奴がまたも、この罠に嵌りかけてはないかと、
つまり、あの場で再び首輪を請うたけれども、それは一時的な感情が招いた短絡で、
その短絡に気付いたとしても、その過ちを認められず、無理やり合理化するのではないかと、
そんな取り越し苦労的なシナリオだったわけだ。

むろん、私は奴を信用しているつもりだが、こうして不安を抱いてしまうのは、
すなわち、私もまた、自分を誤魔化しているのだろうか。



この二日後、奴から電話があった。
前述の、嘘を告白するために寄越した以来、実に二年ぶりのことだった。


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