女房様とお呼びっ!
DiaryINDEXpastwill


2003年10月29日(水) 邯鄲の夢/ユメカマコトカ

休日の街を抜けて自宅に送り届けられたのは、もう午後も遅くだった。

まる一日以上家を空けていたことになるが、当然家の中は出たときのままだ。
出掛けに脱いだ部屋着を再び着て、洗って伏せておいたカップに暖かい茶をいれ、パソコンの前に座る。
そうしてすっかり日常に戻ってみれば、まるでずっとこうしていたような錯覚を覚えてしまう。

ただ、起動したメーラーに取り込まれる幾通かの未読メールが、過ぎた時間を明らかにして、
やはり一日経ったのだなぁと思わず息をついた途端、酷いだるさに全身を襲われた。
気付けば、頭の芯にも痺れるような感覚が生じており、なるほど私は疲れているらしい。

しかし、それらの体感こそが、この一日間に私が得たことの全てで、
あとは何も変わってないのだと改めて思う。
私は奴を失わなかったし、夢が潰えてしまうこともなかった。
最前の別れ際にも、奴はいつものように頭を垂れて、私を見送ってくれた。



最悪の事態を免れてみれば、あれ程怖れていたことが嘘のようだ。
しかしそれは、たかだか数時間のうちであっても紆余曲折を経て、辿り着いた結果ではある。
奴が終わりを望んだことも、私への激しい怒りを吐露したことも、事実起きたことだ。
奴の真情に接し、私が謝罪した気持ちに嘘はない。
それを受け入れては、自身もまた許しを請うた奴を、私は偽りなく許した。

確かに、経緯から私は相応のダメージを負ったが、それも我が身の因果が報いたことで、
奴にあっては、感情が制御しきれずに暴走した経過だったと納得もする。

つまり、結果的に何も変わらなかったけれど、
何事も起きなかったわけではなく、ただ手をこまぬいていたわけでもなく、
然るべき代償を払ったからこそ、以前と変わらない今を手にすることができたのだ。

だから、手にした今にせいせいと喜び、心安らいでいいのだろう。
しかし、私の中には一抹の不安がくすぶっていた。
いや、正確には、急転直下に事態が終息したことで、新たな不安が生じたらしい。

それは、奴が再び首輪を願い出たときから始まって、
いつものように振舞いながらも、意識のうちにずっと影を落としていた。
その影は、ひとりになると一層濃いものとなり、安寧すべき今とのコントラストの大きさに慄いてしまう。
その不安こそが本当のことであれば、手にした今のなんと儚いことだろう。

そんな不幸な発想に苛まれては、払うことも出来ず、
この不安の真偽を確めるべく、礼状にかこつけて、奴にメールを書いた。




無事にお帰りのことと思います。
昨日から長きに亘りお付き合い頂きありがとうございました。
またお疲れさまでした。

ことに、今回はシリアスな問題を抱えての対面でしたので、
心情的に辛かったでしょうし、実際苦しい場面もあったと思います。
それを堪えて、辛抱強く対話に臨んで頂いたことを
本当に嬉しく、また心から感謝する次第です。

私はXXじゃないので、XXのことはわかりません。
意思や思いをもって、見聞きしたことから考えるのがせいぜいです。
だから、どういう形であれ、XXの状況や心情を伝えてもらいたいと
いつも思っています。
もっとも、私に向けて伝えて頂いたことが、そのままXXの真意であるのか、
或いは、思慮が余って本当のことと乖離しているのか、それもわかりません。
しかしながら、私がXXを理解し、自身が納得する根拠はそこにしかなく、
ついては、生来の能天気も手伝って、それを信じるよりほかありません。
というか、信じたいと思うのですね。

もちろん、頭で考えるに、
このやり方はあまりに浅薄すぎやしないかと自らに疑念を抱く部分もあって、
思慮が足りない、言外の意を思いやれない自身の不甲斐なさに怯えつつ、
さりとて、どうしようもない不器用さに甘んじては、自らを恨めしく思います。

と、とりとめなくなりましたが、今の心情はこんな感じです。
また改めて、もう少しわかりやすく(笑)お伝えできればと思います。

ひとまず、とりいそぎのお礼まで。
お疲れと存じますので、今夜はゆっくりお休みくださいね。
ありがとうございました。




送信し終えて、少しでも疲れを取ろうと横になったが、まるで眠ることが出来ない。
それどころか、目を瞑ると昨日のあれこれが回想されて、余計に胸苦しかった。


女房 |HomePage

My追加
エンピツ