女房様とお呼びっ!
DiaryINDEXpastwill


2003年10月19日(日) 同床異夢/眠れぬ夜

私のとってつけたような言い訳に、応えて奴が言う。


「辛かったことは確かですが、
 理不尽とか怒りを感じるとか、そういうことではありません…」

「僕としての意義が、見えなくなってしまったのです…」

「お傍において頂けるのだから、それでいいだろうとも思いました。御用も頂いてましたし…」

「しかし意義を見失ったのは、大変な苦痛でした…」

「そのようなことを考える自分にも、失望してしまいました…」

「何をどう考えても、自閉の状態になってしまいました…」


元々遅い奴のレスが更に間遠になり、ポツポツとログが積まれる。
相槌を打つに憚られて、じっとモニターを見つめて待つ。

そのモニターの向こう、奴はどんな思いで表情で、キーを打っているのだろう。
今更の言い訳をする私にうんざりと困り果てて、
あるいは、夢から醒めてすっかり憑き物の落ちた顔をしているのかしら…。
手を止めてしまえば、そんな不幸な想像が一層ありありと浮かんで、胸苦しい。


「意味の通らない文章で申し訳ありません…」


言葉を探しあぐねたか、そう言って、奴のログが止んだ。



「改めて口頭で伺えば、少しでも理解できるでしょうから…」と答えつつ、
その実、そこで途絶えたことに、私は胸を撫で下ろした。
少なくとも決定的な言葉を浴びずに済んだ、そのことだけで安堵する。
それが夢の終わりを先送りにしただけの、単なる執行猶予と知りながら、束の間の平穏に縋ってしまう。


「あまり結論を急がないほうがお互いのためと思いますよ。
 というか、急がないでほしいわね…」

「ですから、メールの体裁も戻してちょうだい、心臓に悪いから(笑。」


あまつさえ、主ヅラしてその平穏を約そうとしつつ、遂には、みっともない言葉を吐いた。
その浅ましさを知りながら、主の衣を借りてはそうしてしまう自らを呪う。
まやかしの夢に縋る私は、さながら禁断症状に陥った依存症患者のようだ。
僅かでも楽になりたくて、目先の毒に飛びつく短絡。
我ながら恥ずかしくて、取り繕うようなログを積んでみた。


「忘れないでね、キミは私の奴隷だよ(笑。少なくとも今はまだ…」


最後に、またも今更な言葉を重ねて会話を終えた。
空しくてやりきれなくて、溜息が出た。



そして再び、眠れない夜が来る。
眠れないままに、週末の算段をつける。
夢の始末をつけるために、もう少し踏ん張らなければならない。
たとえそれが自ら望まない結果に向かうものであっても。

主ヅラする義務と責任が、今はせめての杖となる。
杖を支えに、奴の都合を問う短いメールを書いた。



果たして翌日、奴から届いた返信には見慣れた風景が蘇っていた。
縋るように吐いた言葉が叶えられて、嬉しく安堵する。
それが蜃気楼であるにしても、懐かしい風景にしばし癒された。

以下、いつもと変わらぬ物言いで、数日前に体裁を変えた詫びと予定を諾する旨が綴られ、
その最後。


>> ご面倒な用向きとは思いますが、堪えてお付き合い頂ければ幸いです。

> とんでもありません。
> いつ如何なる時も、**様の御用を面倒と思ったことはありません。


その言葉に、何事もなく夢が続いているような錯覚を覚えてしまう。
それが錯覚と知るだに、嬉しくもまた辛さが増した。


女房 |HomePage

My追加
エンピツ