女房様とお呼びっ!
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2003年10月13日(月) 甘い予断

鞭を置いた後、「アタシもやらせてぇ」の女の子に位置を譲り、席に戻る。
奴には既に限界かと案じたが、こうした場で本気を出してしまった面映さから、承諾してしまった。

機を得た彼女は、場もちの良い子らしく、実に楽しげに打つ。
先刻の私のそれは、衆目にはどう映っただろう。
自分では取り繕ったつもりだが、きっとこうは見えなかったはずだ。

彼女が打ち終えた矢先、いまひとりの女性からも申し出を受ける。
小心な私は断りきれずに了承したものの、その彼女が打ち始めるや、後悔が走った。
確かに上手に打つのだが、恐ろしく冷酷な気を醸すのだ。
自分のモノが無茶な扱いをされてるようで、気が気でない。
とはいえ、勧めた手前、止めだても出来ず、苛々と見守るしかなかった。

もういいだろうと割って入った時には、奴の腹に無惨な痕が穿たれており、苦々しく思う。
もっとも、そうなるまで、黙って見ていた私こそが悪いのだ。
せめての償いに、浄めるように数発打った後、解放した。
最後まで耐え切った奴が、礼を述べる。
その様に、我が子の晴れ姿を見るような満足を覚えながら、その一方で申し訳なくも思った。

結果、奴には可哀想なことをしたが、鞭に耐えるを誇る自負には寄与しただろう。
何より、鞭以前の陰鬱な気が治まって、憑き物が落ちたような顔をしている。
それに、この成り行きから、帰りの車中で私たちは久しぶりに会話らしい会話を交わした。



もっとも、酔いと疲れから、私はまたも寝入ってしまったのだが、
帰宅後暫くして届いた、奴からの短いメールに、ひとまず安堵の息をつく。


> 本日は本当に、ありがとうございました。
> 穴蔵から抜け出たような心持です。


翌日、定時のメール。


> 昨夜はありがとうございました。
> 精神的に相当追い込まれておりましたが、何とか落ち着くことができました。
> 心理上は楽になりましたが、肉体的には厳しいですね(笑)。
(中略)
> **様の鞭の打撃により、自分を囲んでいた閉塞感が文字通り打破されていくのを感じていました。
> 外部からの打撃に身を任せて、体を走り抜ける衝撃に余計なものが叩き壊されていくようでした。


このあと、昨日説教した事柄のそれぞれに、逐一の詫びと反省が連なる。
が、多分に自罰気味な表現が多く、気に掛かった。ややもすれば卑屈にもとれる。
さすがに、感情から言い過ぎたのかもしれないなと胸が痛んだ。



更に、メールは続く。


> 過去の記録を読んでいると、私の生活自体が**様と共に在ったことが痛感されます。
> 楽しかったことや辛かったことが思い出され、切なくなり辛くなります。
> しかし何よりも苦しいことは、私の暮らしの重要かつ大きな部分であった**様との関係を、
> 今このような状態にしてしまっていることです。
> そのことが常時頭を離れることがなく、肉体的にも失調を来たしています。


この期に及べば、わかりきったことながら、奴の苦悩を改めて知る。
しかし、このとき未だ母獅子気取りでいた私は、これを看過した。
それどころか、ここまで辛い思いをしているのなら、じきに音を上げるだろうとさえ思った。

そこに、先の鞭をもって、小康を得たのだから…という楽観と油断があったことは否めない。
加えて、今回の件で、私の思惑通りに奴を「どうにかできた」ことで、
この先どうあっても、「どうにかできるだろう」と思い済ましてしまったのだ。



けれども、真実起きていたことは、私の予断をまるきり裏切るものだった。
この一週間後、私は自分の甘さを思い知ることになる。


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