女房様とお呼びっ!
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2003年10月06日(月) 期待が腐れていく

その後しばらく、私たちは直に話す機会を得られなかった。
必然的に、口頭で詫びて欲しいという私の期待は棚上げとなったワケだ。
いや正確には、その必然に納得できず、棚に上げるべき期待を手の中でこねくり回してしまった。

そのせいで、それは徐々に腐れていく。
叶わぬ期待が思い通りにならない苛立ちに、やがて恨みがましい怒りとなった。



まだ、期待が期待だった頃、せめてメールで詫びてこないかと望みをつないだ。
SMパブで飲んだ翌日には、普段は殆ど書かないお礼のメールを送り、返事を待った。
『昨夜はちゃんとお詫びできませんでしたけど…』その文面までをも夢想した。
けれど、届いたメールに、思うような言葉は見つからなかった。
余計なことばかり書いて…と、腹立たしささえ覚えた。

それでも、どうにか望みをつなげようとする。
ここに掲げるテキストを読めば、嫌でも気づくんじゃないかしら。
調教の以前から書き始めた、今回のこじれに係る私の心情の経緯は、
時まさに、あの日に端を発して私が真に陥った憂いを明かす段を迎えていた。
こないだみたく、ママを喜ばせてちょうだい。
祈るような思いで書き綴った。

しかし、その晩も私の期待は叶えられなかった。

今思えば、当然のことだ。
奴にしてみれば済んだことだし、私にあっても、過ぎたことを回想して書いたと解釈したのだろう。
いや当時も、その予測は充分についた。
が、そう思うだに、
あれ程私を悩ませといて、たった一通のメールで済ませるのかと情けないような気持ちにもなった。



このとき抱いた情けなさは、寝床の中でどんどん発酵して厭らしい程の気弱を招き、
翌日には、泣き落としのような記事を書いてしまう。
生来のアテツケがましさを抑えきれず、我ながらうんざりした。
けれど、転がり始めた負の感情が、理性を挫く。
だってホントのことだもの…。
自らに言い訳しながら、奴に突きつけるように掲げた。

奴はどう出るだろう。
既に私の堪え性は底をつき、定時のメールを待ち侘びた。

が、酒席で遅く帰宅した奴は、その旨を伝える短いメールを寄越しただけだった。
またも思惑が外れて、溜息が出る。
しかし、短い文面ながら、私はそこに希望を見てしまう。


> ただ、日課でございますので、掲示は拝見いたしました。
> アルコールが入っておりますので、今夜は所感を差し控えさせて頂きます。
> 申し訳ございません。


これで、すっかり明日を約束された気になった。
しかも、期待通りの明日が来るものと思い込んだ。
「今夜はダメよ」とお預けを喰らった子が、「じゃ、明日ならいいんだ」と思い込むように。



果たして、約束されたはずの明日は来なかった。
確かに、奴の所感らしき簡単なメールは届いたが、全然期待通りじゃなかった。

むろん私だって、人が自分の思い通りの言葉をくれるなんて、そんな奇跡を信じちゃない。
けれど、身勝手にしても期待を抱いて、今日叶うか明日叶うかと焦れる日々が心を疲弊させ、
疲れた心は奇跡をも視野に入れてしまう。


> 本日は残業でございまして、ただ今自室に戻ってまいりました。
> 当然素面でございますが、やはりなかなかに思うところはございます。

> **様の意図なさる方向に私が進めなかったことは、本当に残念、かつ申し訳なく思っております。
> **様の投げたボールを受け止めることができなかったことは、まさに痛恨事と感じております。

> 申し上げたくはありませんが、自分の望む姿を、追い求めていたのかもしれません。
> **様には、無用のお心遣いをさせてしまったことを、主従を志向した者として、深くお詫びいたします。


一読して、すぐにボックスを閉じた。
もはや期待は消え失せ、あとには不快と怒りが残るばかりだった。


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