女房様とお呼びっ!
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その後しばらく、私たちは直に話す機会を得られなかった。 必然的に、口頭で詫びて欲しいという私の期待は棚上げとなったワケだ。 いや正確には、その必然に納得できず、棚に上げるべき期待を手の中でこねくり回してしまった。
そのせいで、それは徐々に腐れていく。 叶わぬ期待が思い通りにならない苛立ちに、やがて恨みがましい怒りとなった。
◇
まだ、期待が期待だった頃、せめてメールで詫びてこないかと望みをつないだ。 SMパブで飲んだ翌日には、普段は殆ど書かないお礼のメールを送り、返事を待った。 『昨夜はちゃんとお詫びできませんでしたけど…』その文面までをも夢想した。 けれど、届いたメールに、思うような言葉は見つからなかった。 余計なことばかり書いて…と、腹立たしささえ覚えた。
それでも、どうにか望みをつなげようとする。 ここに掲げるテキストを読めば、嫌でも気づくんじゃないかしら。 調教の以前から書き始めた、今回のこじれに係る私の心情の経緯は、 時まさに、あの日に端を発して私が真に陥った憂いを明かす段を迎えていた。 こないだみたく、ママを喜ばせてちょうだい。 祈るような思いで書き綴った。
しかし、その晩も私の期待は叶えられなかった。
今思えば、当然のことだ。 奴にしてみれば済んだことだし、私にあっても、過ぎたことを回想して書いたと解釈したのだろう。 いや当時も、その予測は充分についた。 が、そう思うだに、 あれ程私を悩ませといて、たった一通のメールで済ませるのかと情けないような気持ちにもなった。
◇
このとき抱いた情けなさは、寝床の中でどんどん発酵して厭らしい程の気弱を招き、 翌日には、泣き落としのような記事を書いてしまう。 生来のアテツケがましさを抑えきれず、我ながらうんざりした。 けれど、転がり始めた負の感情が、理性を挫く。 だってホントのことだもの…。 自らに言い訳しながら、奴に突きつけるように掲げた。
奴はどう出るだろう。 既に私の堪え性は底をつき、定時のメールを待ち侘びた。
が、酒席で遅く帰宅した奴は、その旨を伝える短いメールを寄越しただけだった。 またも思惑が外れて、溜息が出る。 しかし、短い文面ながら、私はそこに希望を見てしまう。
> ただ、日課でございますので、掲示は拝見いたしました。 > アルコールが入っておりますので、今夜は所感を差し控えさせて頂きます。 > 申し訳ございません。
これで、すっかり明日を約束された気になった。 しかも、期待通りの明日が来るものと思い込んだ。 「今夜はダメよ」とお預けを喰らった子が、「じゃ、明日ならいいんだ」と思い込むように。
◇
果たして、約束されたはずの明日は来なかった。 確かに、奴の所感らしき簡単なメールは届いたが、全然期待通りじゃなかった。
むろん私だって、人が自分の思い通りの言葉をくれるなんて、そんな奇跡を信じちゃない。 けれど、身勝手にしても期待を抱いて、今日叶うか明日叶うかと焦れる日々が心を疲弊させ、 疲れた心は奇跡をも視野に入れてしまう。
> 本日は残業でございまして、ただ今自室に戻ってまいりました。 > 当然素面でございますが、やはりなかなかに思うところはございます。
> **様の意図なさる方向に私が進めなかったことは、本当に残念、かつ申し訳なく思っております。 > **様の投げたボールを受け止めることができなかったことは、まさに痛恨事と感じております。
> 申し上げたくはありませんが、自分の望む姿を、追い求めていたのかもしれません。 > **様には、無用のお心遣いをさせてしまったことを、主従を志向した者として、深くお詫びいたします。
一読して、すぐにボックスを閉じた。 もはや期待は消え失せ、あとには不快と怒りが残るばかりだった。
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