女房様とお呼びっ!
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2003年10月05日(日) 齟齬のはじまり

私は、もともと執念深い人間だ。
とりわけ、他人にされた不快なことは恨みがましくいつまでも憶えている。

付き合いのある人ならばなおさら、折り合いが悪くなる時々に、
アンナコトモサレタ、コンナコトモサレタと自分を宥め、溜飲を下げるタネにする。
あまつさえ、ソレデモ許シテヤッタジャナイカとあてつけがましく思い募ることもある。

もっとも、こうした内心を人に晒すことはない。
私は、見栄張りでカッコツケな人間でもあるからだ。
いや、本当はうっかり漏れ出して、あるいはイイヒトぶりつつ小出しにして、
人には疎まれているのかもしれない。
自分でも厭らしい性格だなぁと思うけど、今のところ私の器では精一杯で、こんな具合になっている。
この先もきっとそうだろう。



イリコとの関係において、私は主ヅラして叱ったり、説教したり、それこそ許したりするけれど、
私が私である限り、この性向は当たり前にある。
だから、奴が「許された気になっていただけ」なら、私は「許した気になっていただけ」だったとも言えよう。
もちろん、全てにおいてそうだったと考えるのは寂しいし、考えたくもないけれど。

確かに、奴が寄越したメールに私は救われた。
下手な取り繕いもなく、謙虚に自分の非を認めた文言に、どれほど気が晴れたことだろう。
ようやくわかってくれたかと自分本位に息をつき、思い知ったかと胸がすいた。
思い通りになったことでイイ気にもなった。
そして、イイ気になり過ぎた私は、ここで欲をかいてしまった。

私をイイ気にさせたのは、奴の詫びや反省もさりながら、この思いがけない展開だった。
促したわけでも説教したわけでもないのに、ここまで奴が思い至ったことに驚嘆した。
思わぬ子の成長ぶりに感激するママの心境。
そこで、ママはちょっと反省して、過剰な期待を抱く。

『ガミガミ言わないほうがいいんだわ。
 そしたら、きっとアレも出来るはずだわ。
 だって、ここまで出来たんだもの…。』



私が奴に期待したアレとは、
改めて口頭で詫びてくるだろうという、馬鹿馬鹿しくもささやかなものだった。
しかもそれは、この成り行きに倣って、奴から言い出して欲しかった。
それを受けて嫌味のひとつでも言えば、ひとまず決着するだろう。

そりゃあ、届いたメールに返事を出して、或いは直に会ったときの会話のネタにして、
ゴメンナサイを導き出すほうが簡単だし、期待に縋るより気が楽なのはわかっている。
これまでだってそうしてきたんだし、ついついそうしたくもなる。
けれど、今回ばかりは、そうするのに抵抗があった。

ここまで出来たんだものという思いが、これまでのように先回りして許してヤるに躊躇わせる。
そこに、例の厭らしい性根が拍車をかける。
『アンナコトしたんだから、自分からちゃんと謝るべきよ。』
そうでないと、また許シテヤッタと嵩に着て、許した気になるだけだろうと危ぶんだ。

もっとも、奴にしてみれば、先のメールできちんと詫びたと思い済ましていただろう。
事実、お詫びですと前置きし、反省と謝罪の言葉が並ぶそれは、立派に詫び状だと思う。
ところが私のほうは、イイ気になって欲をかいたがために、それで済ましてなかったワケだ。
これが、やがて最悪の展開を招く齟齬のはじまりとなった。



調教の翌々日に、奴と会う。
馴染みのSMパブで数時間肩を並べた。

共通の知人も居合わせたせいだろう、奴はとても楽しそうだった。
私の頭越し、声高に旧交を温めあったりしていた。
けれど、いつまで経っても、奴の口からは私が期待した言葉は出てこなかった。

仕方なく、どうでもいい話を散らかして、たくさん酒を飲んだ。
グラスを重ねながら、帰りの車中は寝入ってしまうんだろうなと思った。
アテが外れたせいなのか、なんだか妙に寂しかった。


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