女房様とお呼びっ!
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2003年10月04日(土) つかのまの平穏

私の無神経な発言に大いに傷ついたはずの奴はしかし、パニックにも陥らず、平静を保ち続けた。
来し方を顧みれば、よく堪えるようになったものだ。

もちろん、受けた衝撃に相応の気の乱れはあったろう。
が、私は専ら身を襲う倦怠感に悩まされていて、気づく余裕がなかった。
奴には気の毒な話だが、却ってよかったのかもしれないとも思う。



しばらく休んだ後、ホテルを後にする。
帰りの車中でも、私は殆ど喋らなかった。

奴には、しんどいからと言い訳した。
確かにひどく疲れていたし、先のだるさが尾を引いて熱っぽかった。
けれども、私が黙したのは、そのせいばかりじゃない。
未だ胸のうちにモヤモヤとしたものが立ち込め、気を塞ぐ。
やりきれなさが、口をつぐませた。

別れ際、せめてもの思いで、奴の頭を撫でる。
車中で私が醸してしまった陰鬱な気を払えればと思った。
私の気鬱は、奴にとって穏やかならざるものだろう。
そんな気分で帰途につかせたくなかったし、
折角の機会だったのに、こんな風でごめんねと謝りたいような気持ちもあった。

いつものように見送るつもりが、不意にそうされた奴は、戸惑った風に立ち尽くす。
その顔を一瞥して、じゃあねと踵を返し、後ろ手に手を振った。
これは、いつもそうしていること。



帰宅してからも、なんとなく気分が優れなかったのだが、
その晩に届いた奴のメールに、私は心底救われることになる。
そこに綴られた奴の心象は、今回奴とこじれて以降、私が真に待ち望んだことだった。
加えて、思いがけない自省の言葉まで見て取れて、驚きつつも、嬉しかった。
ようやくここまで来たかと面映いような心持で、何度も読んだ。



> 本日はお時間をいただき、お礼申し上げます。

(中略)

> ここからは、お詫びでございます。

> 今日一日を振り返ってみますと、今までになかった事があったように感じております。
> あまり**様がお話になることがなく、会話がなかったように感じております。

> これは、**様のご体調の悪さが起因しているものと拝察しております。
> しかし顧みれば、今まで私が取っていた態度が、まさにこれに相当するものではと思い至りました。

> 大変申し訳ないことをしていたと、今更ながらに感じております。
> **様にしますれば、さぞかし辛いお気持ちでいたことでしょう。
> 再三にわたりお伝え頂いていたのに、そこに思い至らないとは、
> なんと思いやりのない人間であろうかと愕然としております。


> 「話す事がない」「無理やり話すのはいかがなものか」
> これらは、紛れもなく私が口にしていたことです。
> 今では、なんと馬鹿げたことを言い放っていたのだろうと深く反省しております。

> 相手の気持ちを思いやることなく、自分が体感して初めてわかるとは、なんとも申し上げようがありません。
> **様をこのような気持ちにさせていたとは、もはやお詫びのしようもない振舞いと感じております。
> 今日図らずも明らかになったように、
> **様がお口を開いてくださらなければ、私達の間に会話はないことになります。
> なんと恐ろしいことでしょう。そして、なんと私は**様に甘えていたことでしょう。


> 過去の記録を読んでいると、眩暈がする時があります。
> 十年一日のごとく、私は同じようなお詫びを繰り返しています。
> 書かれた御文にもあったように、私は許された気になっていただけなのでしょう。
> だからこそ、同じような過ちをいつまでも繰り返してしまうに違いありません。

> 言うまでもないことですが、今までの年月は**様と歩んできた年月でした。
> その月日に何の進歩もないとしたら、**様にとりましては何ともやるせないことと思われます。

> **様とのお付き合いを通じて、自分がどれほどのものか判ってまいりました。
> 全く大したことのない人間でした。
> しかし、今からでも変わることができれば、**様のお気持ちに沿う一つの道であろうと考えております。





当然のこと、そこまで抱いていた憂いが晴れていく。
私は、ようやくにして平穏を取り戻した。
いや……はずだった。


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