女房様とお呼びっ!
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2003年10月03日(金) みっつの後悔

「触り甲斐がないねぇ」

そう打ち切った私の言葉は、奴の無念を深くしたことだろう。
この直前まで奴は、『折角情けを頂いているのに、応えられない自分』に焦り、
何とか挽回したいと願っていたろうから。
殊に奴にとって、首尾よく勃起出来るかどうかは最大の関心事であり、
勃ちさえすれば、射精云々は何ら問題ではないのだ。

実際、奴との調教を含む行為において、射精をもって終了という観念は相互にない。
だから、蝋燭を終え、各々が達成感に似た心境にあるうちに、事を収めればよかったのだと悔やまれる。
これまでも、そうしてきたのだから。
それを余計な気を回して、奴には却って辛い目に遭わせてしまった。
これがひとつ目の後悔。



勝手なもので、その結果は一方、私の心象にまで影響した。

もっとも、事の次第は珍しいことではない。
奴に限らず、ハードな責めの後や或いは極度の緊張から、弄っても勃たないケースはままある。
奴にあっては、よくあることだ。
だからこそ、奴は一層気に病むのだが、私はさして気にならない。
ましてや、それで不機嫌になったりもしない。

しかしこのとき、私は明らかに気が落ちるのを感じた。
それが、思うように事が運ばなかった失望なのか、
余計なことをして最前の気分が損なわれた後悔なのかは判然としない。
折角ヨクしてやってるのに…という理不尽な怒りもあったろう。
一言で言えば、あーあと嘆くような心持になってしまった。

と同時に、恐ろしい疲労感に襲われる。
せき止めておいたそれが決壊し、波に飲まれる感じ。
あまりのだるさに耐え切れず、ベッドに身を投げせば、吸い込まれんばかりに体が重い。

我ながら、なぜこんなに疲れているんだろうと訝しむ。
それほど激しく動いちゃないのに。
やはり、異常に気が張ってたからかしら。

ぼんやりと考えを巡らすうち、奴の作業がそろそろ終わりそうだ。
寝転んだまま、次の指示を与える。

「終わったら、シャワー浴びてらっしゃい。首輪は自分で外して。」



何気ない、しかし無配慮に吐いたこの言葉が、ふたつ目の後悔を呼ぶ。
いや、その時点ではさほど重大な過ちに捉えてなかった。
しかし、後日のメールで奴の心象を知るや、シマッタと悔いた。


> 自分で首輪を外すよう命ぜられ、ショックを受けました。


この後、私は更に過ちを重ねた。
シャワーを終えた奴がいつも通りに首輪を請うた折、またも無神経な言葉で、それをいなしてしまったのだ。
これがみっつ目の、そして最大の後悔となる。


> 「めんどいからヤダ」とのことで、激しくショックを受けました。


結局私は、みたび奴を傷つけてしまった。
殊にあとのふたつは、責めるとか叱るとか、そういうあからさまな辛さ以上の、
全く違う次元のダメージを与えたに違いない。
自身に非があればこそ、過酷な仕打ちにも甘んじようが、ここに奴の落ち度はない。
それだけに、心底辛かったことだろう。
今更ながら、本当に申し訳なく思う。



正直に告白すれば、これらは、真実無意識に発したものではない。
自分で首輪を外せと命じたときも、めんどいからヤダと言ったときも、その直前にはっきり躊躇があった。
子どもじみた言い訳だが、やらなきゃとは思った。
が、つまりは自分に、何より奴に甘えてしまったのだ。
疲れてるのよ、勘弁してよと疎む気持ちもあった。

確かに、この手落ちについて、酷く疲弊していたからと言い逃れも出来よう。
しかし、そう言い募るのは、あまりにも卑怯だ。
第一、いくら疲れてようと出来ないほどの所作ではない。

つまり、私は奴を蔑ろにしたのだ。
それは、いかに奴を奴隷と見なそうと決してしてはならないことと、常は肝に銘じている。
自己欺瞞でなければ、事実そうしたことはなかったはずだ。

なのに、それを覆してしまったのは、この期に及んでもなお心底にくすぶる奴へのわだかまりと、
それに乗じて顔を出した、生来のアテツケガマシサによる。
情けないけれど、そういうことだ。

むろん、この日の行為が無意味だったとは思わない。
納得できる結果も得たし、奴からは、首尾よい感想ももらっている。
けれど、ただただ自身の問題として、私は気持ちの落とし所に惑ったままでいた。


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