女房様とお呼びっ!
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2003年07月11日(金) |
無言調教 〜プロローグ〜 |
今回ここまでこじれた事の発端は、 「無理やり話すのはいかがなものかと…」とイリコが吐いた言葉にある。 このふた月を更に半月ほど遡った日のことだ。
その言葉が耳に届いた瞬間、 心にさっと帳が下りたような感覚が生じ、それはその後暫く私を悩ませた。 いや寧ろ、日ごとに帳の厚みは増し、やがて岩戸のように胸を塞いだ。
その間も、奴の日課であるメールは届く。 流石に事の直後とて、自身の言動の諸々を取り上げては、詫びの言葉が連ねてある。 そこに奴なりの気遣いを見るも、残念ながら、それで気が晴れはしなかった。 それどころか、的外れな反省を見咎めては溜息をつき、奴の誤解や錯誤を解くべく、返事を書いた。 正直、面倒な作業だった。
殊更に言うと弁解がましいが、私は奴にメールを書く自体面倒ではない。 意思を疎通させるには言葉が不可欠だと思ってるし、齟齬を恐れて過剰なくらい言葉を費やす。 しかし、この時心に下りた帳は、すなわち奴に向かう隔たりとなり、どうにも筆を鈍らせる。 奮って書けば、知らず慇懃な物言いを連ねてしまう。 我ながら、うんざりした。
◇
些細なきっかけであれ、心が塞いでしまうと厄介だ。 塞いだ端から発酵が始まり、腐れてしまう。 それは実感として、とても不快なものだ。
腐れるまま放っておく手もあるが、 根気のない私は、ものの一週間でいてもたってもいられなくなり、再び足掻くこととなった。 まずは心の澱を吐き出して、気の回復を図らねばならない。
これが、「直近のウツ」と題して、事の顛末を記し始めた動機だ。 しかし、ここに心の内を晒せば、奴の目にするところとなり、それは必ずや奴を苛むだろう。 それはわかっていたし、寧ろそれを期する気持ちもあった。 いや、誤魔化さず言えば、そうでなければ、意味がなかった。 奴に突きつけるように書いた、それが真相だ。
記事中、再々「自分のために書いている」とエクスキューズしたのは、 そこに滲むアテツケがましさを拭うためだ。 が、どう取り繕おうと、紛れもなくそれはあり、今更に自分の姑息さに辟易とした。 これまで通り、格好つけてやり過ごせばよかったと後悔もした。 けれど、既にその体力はなく、賽を投げたような心持で続けた。
独白を装った私の言葉は、鈍い刃のように奴をジクジクと責めたに違いない。 折々に、反省と謝罪と感謝を織り交ぜた息詰まるようなメールが届いた。 そして、期待通りのその反応に、私は少しずつ癒されていく。 厭らしい情動だが、本当のことだ。 奴を辛い目にあわせながら、それと引き換えに、私の気は徐々に晴れていった。
◇
こうして端緒をつけてしまうと、現金なもので随分と気が楽になるものだ。 同時に、奴について考える気力も戻ってきた。 とはいえ、あの日奴が放った言葉が、依然心の底にわだかまり、思考を鈍らせる。 長期的な展望が出来ず、頭を抱えてしまった。
そこで、調教を行うことにした。 奴を苦しめ始めてから、一週間が経っていた。
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