女房様とお呼びっ!
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「耐えられませんでした」というイリコの文言を見て、とあるエピソードが思い起こされた。 それは私の友人に起こったことで、 私たちが辿ったそれとはまるで様相は異なるし、突飛な連想かもしれない。 それでも、何か通底するものがあるような気がして、ここに記そうと思う。
◇
その友人と出会ったのは7年程前だ。 今はどうだか知らないが、当時の彼女は、他者によって罰せられたい、壊されたいと望んでいた。 根本的には自罰・自虐願望なのだが、そこに介在する他者が必要だ。 そして、それが叶う可能性をSMの関係に見た彼女は、 すなわち、自身の望み通りに壊してくれるS男性を巷に求めたのだ。
既にSM遍歴を重ねていた彼女は、折々にその経験を語った。 それらは、SMプレイとしては恐ろしくハードで、現実にそんな行為が、 しかも間近に見るこの美しい人によってなされたとは、俄かに信じ難いようなものだった。
けれど、私にはそれが彼女の懺悔のように聞こえてしまう。 それはやはり、彼女が自分を罰したがっていたせいだろうか。
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ある時、とある男との成り行きを聞く。 男が何を命じ、彼女はどう応えたか。
恥辱を与えるのが好きな男だったようだ。 自らを貶めたい彼女は、羞恥に苦しみながらも男に従う。 従うごと、男の課す破廉恥な行為はエスカレートする。 しかし、それらをことごとく彼女は受け入れた。 もちろん、受容には苦しみも葛藤も伴うが、それゆえに罰なのだ。
男が彼女に下した罰が明かされる度、私は驚き、息を呑み、やがて男との終焉までを聞き終えた。 既に、彼女らがどう終わったかについては記憶にない。 が、はっきりと憶えているのは、自身に湧き起こったやりきれないような気持ちと、 「貴女、酷いことしたものね…」と感想したこと。 私には、彼女よりも男が可哀想に思えたのだ。
今にして思えば、私こそ彼女に酷いことを言ったものと思う。 しかし、率直な感想だった。
たぶん、男側に視点を置いてしまったからだろう。 責めても責めても音を上げない相手、 底なし沼を埋めているような徒労感が想像されて、その残酷に慄いた。 終焉に近づくにつれ常軌を逸していく責めが、まるで男の悲鳴のようで身震いがした。
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このとき、私は彼女に、「どうして耐え切ってしまったの…」とも言った。 「耐えられない」というひと言で、そこまでの凄絶な展開は避けられたのにと思ったのだ。
が、それは全くの短絡だと今ならわかる。 当時の彼女の願望に沿えば、そんなシナリオはあり得ない。 自らを罰したい人間が、許しを請うわけがないもの。 と同時に、男もまた許されたくない人間だったかと想像する。 つまり、彼女らは必然として、互いに耐えるしかなかったのかと。
◇
と、ここまで書いて、私こそが「彼女に耐え切れずに逃げた」過去を思い出した。 流れとしては、この事実のほうが、余程本題に近いかと笑ってしまった。 が、ついでに書くほど簡単でもなく、何より大切な記憶なので、この話はまたいずれ。
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