女房様とお呼びっ!
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2003年07月10日(木) 「耐える」の功罪

「耐えられませんでした」というイリコの文言を見て、とあるエピソードが思い起こされた。
それは私の友人に起こったことで、
私たちが辿ったそれとはまるで様相は異なるし、突飛な連想かもしれない。
それでも、何か通底するものがあるような気がして、ここに記そうと思う。





その友人と出会ったのは7年程前だ。
今はどうだか知らないが、当時の彼女は、他者によって罰せられたい、壊されたいと望んでいた。
根本的には自罰・自虐願望なのだが、そこに介在する他者が必要だ。
そして、それが叶う可能性をSMの関係に見た彼女は、
すなわち、自身の望み通りに壊してくれるS男性を巷に求めたのだ。

既にSM遍歴を重ねていた彼女は、折々にその経験を語った。
それらは、SMプレイとしては恐ろしくハードで、現実にそんな行為が、
しかも間近に見るこの美しい人によってなされたとは、俄かに信じ難いようなものだった。

けれど、私にはそれが彼女の懺悔のように聞こえてしまう。
それはやはり、彼女が自分を罰したがっていたせいだろうか。

**

ある時、とある男との成り行きを聞く。
男が何を命じ、彼女はどう応えたか。

恥辱を与えるのが好きな男だったようだ。
自らを貶めたい彼女は、羞恥に苦しみながらも男に従う。
従うごと、男の課す破廉恥な行為はエスカレートする。
しかし、それらをことごとく彼女は受け入れた。
もちろん、受容には苦しみも葛藤も伴うが、それゆえに罰なのだ。

男が彼女に下した罰が明かされる度、私は驚き、息を呑み、やがて男との終焉までを聞き終えた。
既に、彼女らがどう終わったかについては記憶にない。
が、はっきりと憶えているのは、自身に湧き起こったやりきれないような気持ちと、
「貴女、酷いことしたものね…」と感想したこと。
私には、彼女よりも男が可哀想に思えたのだ。

今にして思えば、私こそ彼女に酷いことを言ったものと思う。
しかし、率直な感想だった。

たぶん、男側に視点を置いてしまったからだろう。
責めても責めても音を上げない相手、
底なし沼を埋めているような徒労感が想像されて、その残酷に慄いた。
終焉に近づくにつれ常軌を逸していく責めが、まるで男の悲鳴のようで身震いがした。

**

このとき、私は彼女に、「どうして耐え切ってしまったの…」とも言った。
「耐えられない」というひと言で、そこまでの凄絶な展開は避けられたのにと思ったのだ。

が、それは全くの短絡だと今ならわかる。
当時の彼女の願望に沿えば、そんなシナリオはあり得ない。
自らを罰したい人間が、許しを請うわけがないもの。
と同時に、男もまた許されたくない人間だったかと想像する。
つまり、彼女らは必然として、互いに耐えるしかなかったのかと。





と、ここまで書いて、私こそが「彼女に耐え切れずに逃げた」過去を思い出した。
流れとしては、この事実のほうが、余程本題に近いかと笑ってしまった。
が、ついでに書くほど簡単でもなく、何より大切な記憶なので、この話はまたいずれ。


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