女房様とお呼びっ!
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2003年05月02日(金) タメイキの理由

奴の言葉に私が萎えてしまったのは、それが反論だったからじゃない。
少なくとも自分としては、”奴隷のくせに楯突くなんて”的発想は持ち合わせてないつもりだ。
それは、奴にも折りに触れ言ってある。
それでも奴の位置にあれば、どうしたって”奴隷のくせに”に囚われて、
言葉を返すことは難しかろうと想像している。

だから、それを圧して出る奴の疑問や反論には寧ろ一層の意味を見て、
注意深く聞き、吟味し、応えたいと願う。
それ程の価値を感じる。

確かに、妄想に生きる奴隷が旨とする、
”自分の意志を捨てて主の意思を絶対とする”なんてのは麗しいとは思う。
けれども、現実に生きる私はそんな妄想を信じちゃないし、第一私の理想はそこにはない。

だって、そんな奴隷、ロボットみたいでツマラナイ。
いや、ロボットならロボットなりに使い道があるのだろうけど、
私にはヒトをそういう風に使いこなす度量がない。
だから、妄想の奴隷を目指す者にとっては、私はツカエナイ女王様だろうな(笑。
つまり、私は凡庸な人間なのだ。
身の丈にあったヒトらしい奴隷でないとツライ。



溜息吐く前っだったか、奴が言った。


「私、今奴隷としてある状態とそれ以前にそうありたいと思っていた姿と大体同じなんですね…」


あぁそうなんだろうね。
だからこそ、満足して奴隷を勤めてるんだろう。
私とあって奴の希望が叶ったのなら、それは喜ぶべきことと思う。
私の言葉通りに動き、私の言葉がない限りじっと待つ、それが奴の思う奴隷像だ。

そこへ、「偶には無理してでも喋れ」なんて、
奴の理想に反する状態を要求されては、抵抗してしまうのもやむを得ない。
あるいは、これまで以上の対応を課されても、現状に精一杯で応える余力がないと危ぶんだか。
更には、理想通りに振舞っているそのことが、私を困らせている事実を認めたくなかったのかもしれない。

しかし、奴がいずれを言い訳に反論しようと、私には奴に言い下す道理がある。
キミの理想が叶ったのはいいけど、それじゃただの自己満足だろう?とか。
キミの理想に沿うならば、言われた通りに従えばいいんじゃないの?とか。
出来ないと諦める前にやるのが本来だろうとか。
自分に都合が悪いことは認めたくないんだね?とか(笑。



ところが、奴が反論の盾に持ち出したのは、
”親しい間柄なら、話したい事柄がないときは無理して話す必要はない”という、
ヒトとしての一般論だった。
奴が日頃どう人と付き合っているかというような。
だから、私は溜息吐くしかなかったのだ。
奴の奴隷としての輪郭がぼやけ、ヒトの姿を見てしまった。
価値観の違う人間に説教するほど私は酔狂じゃない。

例えば、このとき奴があくまで身勝手に抱く理想像に拘り、
”奴隷としては…”的抵抗を示したのなら、私は予定通りに説教を始めただろう。
しかし、奴の言葉は私のやり方自体を問うもので、その思惑はすっかり覆されてしまった。
更に言えば、これまで私が奴に施してきた無理を否定された気にもなり、なんだかメゲてしまった。

もちろん、
自分の価値観に従って他者に行ったことが、自分の思い通りに他者に評価されるとは限らない、
それは重々承知している。
だから、ここで私たちの間に生じた齟齬は、
「アナタのために私はこんなに無理してんのよっ」「誰がそんな無理しろと言った?!」
てな、ありふれた諍いと思う。
そして往々にその手の諍いは平行線を辿るものだ。



かくして、私は奴の主張を否定することも出来ず、
まして説教するとか謝らせるとかSM的手法で仕置くとか、当初の予定を捨て去って、
ただ溜息吐くに留めたんだね。


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