女房様とお呼びっ!
DiaryINDEX|past|will
2003年04月30日(水) |
ワルアガキの果て 2 |
馴染みのラブホに着いて、車を降り際、イリコが「このお荷物もお持ちしますか?」と訊く。 その言葉に、へぇ珍しいなと思う。
奴はこの”私の用件についてまずは私の意思を問う”を怠ることが往々にあるのだ。 その度に、独り決めするなと苦い言葉を浴びて、自分勝手が招いた結果を始末するのに忙しい。
もっともこの時は、奴なりの期待も働いたかなと意地悪な想像もする。 イベントの翌日とて、これまでの経験則から、私が欲情してラブホに急いだと読んだか。 あるいは、奴自身もそれなりに高まっていた向きもあるだろう。 そうなると私の荷物は奴の期待を集めるそのものとなり、 もしかすると既に前の晩、そこに鞭だの縄だのが忍ばせてあるのに気がついて、 心躍らせていたのかもしれない。
◇
奴と会うとき、それがどんな心境からであれ、私はそれなりの支度をしていく。 もちろん全く手ぶらのときもあるが、それも考えてそうしていることだ。 どんな用向きにせよ、予めある程度の成り行きを予想する。 思えば何とも無粋な作業だが、私たちの間柄に求められる行為にはこうした準備が欠かせない。
理想を言えば、もし私か奴がドラえもんだったなら。 心のままに成り行き次第、たらららったらーとお道具を出して行為できるのに(笑。 あ、いや、専用のプレイルームでも持ってれば話は別か。あはは。 けど、ラブホを渡り歩く身ではそうもいかず、 これがこうしてああなって…と時間と手間とやるべきことを思い描いては、 その時々で荷物を作っている。
この日も、確かに主目的は苦言を呈することだったが、 文句を言えば奴は項垂れて謝って落ち込んで、ひょっとすると石になって、 その流れを断つ形でお仕置きにかこつけて括って打って、 それで多分奴は許された気になって安心して、それを待って今度は戯れに責めて、 私の体が温まった頃合に奉仕で〆、というシナリオを想定した。
それで、イベントの衣装で膨む鞄の中に、無理やり鞭だの縄だの詰め込んだワケだ。
◇
部屋に入り、まずは機嫌よく朝飯を食べ、落ち着いた時分に話を切り出す。 (腹が減ってちゃロクなことにならないからね、こういう時は無理にでも物を入れる、笑) 奴の期待を裏切ったのは申し訳ないが、行為の前に説教するのは割とありがちなことで、 その点で奴には驚くとか怒るとかの心象はなかったろう。 それに、私が質したバスの中での一件は、ほんの数日前のことだったので、 奴としても、何か一言あると覚悟はしてたと思う。
だから、私の苦言がバスの中での振る舞いに限って問うものであれば、 奴はすんなり詫びることが出来たのかなと今にして思う。 しかしながら、私の苦言はその件を基点にして、月日を遡ってしまった。 つまり、昨日記事したような事柄を、恐らくは奴を責めるように言ってしまったのだ。
それはもちろん私が言いたいことの全てだったけれど、 奴にしてみれば、ナニモソコマデの思いを招いたのかもしれない。 私が10喋って、奴が1答えるみたいなやり取りの中、 奴の様子はただ項垂れるだけの奴隷から、我を張るヒトのものとなっていく。
「あの朝は花粉症が酷くて…」 「やはり、私の立場では私のほうからはお話申し上げにくいです…」
そして話題は、私が無理やり喋るのは疲れるという事実から、 私によらず誰かとあれば、場の流れから無理やり話題を取ることも必要じゃないか というくだりになる。 すると奴は、畏れながらとエクスキューズしながらも、こう返してきた。
「(親しければ)無理やり話すというのはいかがなものかと…」
それを聞いて、思わず溜息が出た。 ソファに沈み込んで、ようよう言葉を継ぐ。「ああ、価値観が違うんだねぇ…」
◇
それきり、私は持参した縄や鞭の存在をナカッタコトにした。
|