女房様とお呼びっ!
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イリコと初めて会った時から、 私は奴の排他的ともいうべき自尊心の高さに気付いていた。 その以前にメールを交し合った時々にも、それは何となく感じていたのだけれど、 対面してはっきりとわかった。 しかし、奴のその性向は私には忌むべきものではない。 寧ろその部分にこそ、奴隷たる素地を、ひいては関わるべき動機を見たのだ。
だから、初対面にも関わらず、多分にS側という立場に乗じて、それを指摘した。 流石にそう確信するに至った奴の言動をあげつらうのは憚られて、 私としては言葉を選んだつもりだったのだが、果たして奴はそれを聞くや絶句し、 臆面もなくぼろぼろと泪をこぼし、鼻水まで垂れた。 酒のせいもあったろうけど、そうなってしまう奴に私は希望を得た。
そして、まさにこの時、私は奴を奴隷にしようと思ったのだ。 どこか人を寄せない猜疑心の強そうなこの男の、表側に現れる精一杯の自尊は、 たぶん汚れた根を持たないと。 恐らくはこれまで経験に恵まれなかったか怖じたか、つまり無知ゆえの、無垢ゆえの結果だろうと。 己の恥を知り得て泣ける奴の魂は、きっと清らかだと。 そう感じたから。
・・・・・。
初めてプレイした後、私は奴に、暫定ながら奴隷の位置を与えた。 何故”暫定”なのかと問われれば、それは単に勿体をつけただけ(笑。 まぁそんなカッコつけたせいで、後に思わぬ不幸を背負い込むのだけど。
もっとも、その時にはそんなこと想像もしてないので、本心では、 奴が自分の奴隷になったのは決定事項で、早々と仕込む展望を描いてたのね。 挙句、プレイ後に行った飲み屋で既に私は、すっかりその気で説教している。
「奴隷ってのは、”自分のものさし”を捨てることなのよ」 「キミは、”自分のものさし”がとても大事みたいだけど、大丈夫かしら?」 「大事なのはわかるけど、人とあっては、他人のものさしも尊重しなくちゃね。」 「てか、そうしたほうがキミが得なの。人と付き合う知恵みたいなもんかなぁ。」 「だから、奴隷やることで無理やりにでも、人のものさしに沿う訓練が出来ればいいね」
その時から二年あまり、私は何度もこの説教を繰り返してきた。 つまり、奴が躓き、私が指摘する事柄はいつも同じ、相変わらずなのだ。 もっとも、人がそう簡単に変わるはずもないのは知っている。 だから、人を変えたいなんて不遜な展望を抱いた時点で、その困難に甘んじる覚悟はある。 そして、飽きず同じことを言い続けている。
・・・・・。
春の乱に端を発したメールの対話も、結局この問題に行き着いた。 というか、やっぱり私のほうから、いつもの説教を始めたのだけど(笑) 先の記事であげた、奴の「高校生」発言を「甘い」と断じた後に続けて。メール文中より。
> 何度も繰り返してきましたが、意識的な訓練こそが必要だと思っています。(中略) > 私がキミを訓練する目的は、キミの人間的な成長を願ってるわけじゃないのです。 > はっきり言って、まさに私のために益になるべく、キミを躾けているんですね。 > 勿論、目標の達成に付随して、キミが人としても成長した結果を見られれば何よりと思いますが。
読み返すと随分酷い言い分だが、そのぶん、奴には強いインパクトを与えたのだろう。 返信メールには、思いがけない心象が綴られていた。
> 再三にわたり「訓練」というお言葉を頂いておりましたが、 > 今初めて理解いたしました。遅きに失し、お詫びいたします。
これを読んで、またも私は唸ってしまったのである。
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