女房様とお呼びっ!
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2003年01月31日(金) 主を支える奴隷ふたたび #2

彼女の様子の変調に慌てた私は、前夜のログを見返しながら、慎重に言葉を継ぐ。
だが、そこまでの彼らの経緯を知らぬ私には、どう言い繕っていいかわからない。
仕方がないので、奴から聞き及んだ事柄を、出来る限り正確に伝えることにした。
そして一通りの説明を聞き終えると、彼女は決然と言い放った。「私、降りますッ」

その後は届く声音もせいせいとしたものとなり、奴をネタに盛り上がったものだ。
会話を進めるうち、奴を介した女二人の認識のずれが次々と見えてきて、笑った。
電話を終えてから程なくして、お礼のメールを頂く。改めて好ましい人だと思う。
そこに、彼女が奴に宛てたメールが添えてあり、「私の結論です」と結ばれていた。

なぜ彼女があの時絶句し、降りると結論したか。メールは充分な理解をもたらした。
結局、彼らの間にも認識のずれがあり、特に奴は致命的な勘違いをしてたらしい。
それが、奴が私に言った「○○様を支えたい」という発言で露見してしまったのだ。
つまり、”支えて”欲しい程には信頼してない奴にそう言われ、彼女は激怒した、と。

かくて彼女は、取り戻したはずの奴を見放した。その一瞬前まで手にしてたのに。
このあまりに厳しい裁定はしかし、彼女の事情を知れば、当然の結論だろうと思う。
なぜなら、彼女は近い過去に、真の意味で”主を支える”奴隷を飼っていたんだね。
その存在は失ってもなお強烈だろうし、誰彼が易々と”支える”など許すはずもない。

・・・・・。

その後、私もまた奴との関係を白紙に戻した。彼女の結論を鑑みたのは否めない。
けど私は私で、奴の仕打ちを飲み込めなかったからね。彼らの結果に関わりなく。
もちろん怒りもあった。が、姑息にも私は、突然に奴を襲った不幸につけこんだ。
自らの怒りを抑え、したり顔で、彼女と奴の事の次第を解いてやってみせたのだ。

あぁわかってたのよ。そうやって、おためごかしに関わり続けることの破廉恥さ。
諦めきれてないくせに、正々堂々口説き直しもせずに、説教くさい文言を垂れて。
けれど。やりきれない気持ちの行方に惑い、縋るような思いでそうしてしまった。
と同時に、奴が女達に犯した過ちを暴き、その傲慢を思い知らせたい気もあった。

その中で、奴隷が”主を支える”ことの難しさや重さ、過酷さを、奴に語った。
語るごと、かつて私が「犬」と辿った壮絶な日々が思い出されて泣けちゃったよ(笑
結果、奴はようやく、己の吐いた言葉の重大さに気づいたらしい。そうだろうね。
あの時奴が言った”主を支える”は、単に個人的に仕える程度の意だったろうから。

・・・・・。

今更の話だが、私が、彼女に、奴の言葉を伝えてなければ、結果は違ったと思う。
彼らの経緯を知らない私は、奴の言うままに、”主たる彼女を支える”のねと思うし、
彼女は、”支えて”もらおうなんて露程も思わず、所期の通りに奴と関わったろうし、
奴は、”主を支えている”つもりのまま、安穏と彼女の奴隷を務めてられたのだろう。

とすれば、”主を支える”なんて重大な台詞を、不用意に伝えたことに悔いが残る。
けれど、たかが言葉の問題にせよ、安易に”支える”と言い及んだ奴のことだもの、
彼女との縁が続いたとしても、いつかこうした不幸な齟齬が生じたとも想像する。
それに・・・奴は”主を支える”タマじゃないし(笑。これは後からわかったこと。

・・・・・。

私は、”主を支える奴隷”を否定しない。いや寧ろ、それは私にとって聖域にある。
ほんの一時期だったけど、「犬」が魂を削るように仕えてくれた大切な記憶とともに。
けれど、”主を支える”に限らず、人が”人を支える”なんて並大抵のことじゃないと、
奴だけでなく私もまた、いや人に関わる全ての人が心に留めるべきことだと思う。


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