女房様とお呼びっ!
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じきに電車が駅に着く。 アタシが降りて、男が残る。 サヨナラの間際。
「また会いましょう」
◇
行儀良く頷く男の頬に掌を宛い、 アタシは、ズイズイと顔を寄せていく。 突然の出来事に慌てる、その瞳に抗いの色。
後頭部を支えつつ、一気に口づける。 抵抗を封じるべく、のっけから唇を割る。 強引に差し込まれる舌。 あっけなく応じる男の口腔。
反射的に追ってくる舌を僅かに味わい、 唾をたらし込みざま、ツッと身を引く。 身勝手な強制終了。
◇
唐突な幕引きに、言葉をなくして呆ける男。 その唇を指で拭ってやる。 指先を汚す、名残の紅と透明な粘液。 それを男の耳朶で拭く。 軽く爪の先で引っ掻いて、ちょっと悪戯。 そしてサヨナラ。
ヒラヒラと手を振って、電車を降りる。 振り向けば、男の視線がアタシを追いかける。 だから、さっき悪戯した指を咥えてみせた。
◇
独り残された男。 今頃、どうしているかしら?
アタシの掌が触れた頬や アタシが力を込めたうなじや アタシが奪った唇や アタシがこじ開けた歯列や アタシに絡め取られた舌とともに。
アタシの紅と唾をまぶされた耳は 湿った音の幻を聞くかしら?
辛く苦しい昂ぶりに苛まれ、 何度も何度も寝返りを打ってるとイイナ。
◇
サヨナラしても、デイトは続いてる。
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