女房様とお呼びっ!
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2002年06月12日(水) サヨナラ・キッス

じきに電車が駅に着く。
アタシが降りて、男が残る。
サヨナラの間際。

「また会いましょう」



行儀良く頷く男の頬に掌を宛い、
アタシは、ズイズイと顔を寄せていく。
突然の出来事に慌てる、その瞳に抗いの色。

後頭部を支えつつ、一気に口づける。
抵抗を封じるべく、のっけから唇を割る。
強引に差し込まれる舌。
あっけなく応じる男の口腔。

反射的に追ってくる舌を僅かに味わい、
唾をたらし込みざま、ツッと身を引く。
身勝手な強制終了。



唐突な幕引きに、言葉をなくして呆ける男。
その唇を指で拭ってやる。
指先を汚す、名残の紅と透明な粘液。
それを男の耳朶で拭く。
軽く爪の先で引っ掻いて、ちょっと悪戯。
そしてサヨナラ。

ヒラヒラと手を振って、電車を降りる。
振り向けば、男の視線がアタシを追いかける。
だから、さっき悪戯した指を咥えてみせた。



独り残された男。
今頃、どうしているかしら?

アタシの掌が触れた頬や
アタシが力を込めたうなじや
アタシが奪った唇や
アタシがこじ開けた歯列や
アタシに絡め取られた舌とともに。

アタシの紅と唾をまぶされた耳は
湿った音の幻を聞くかしら?

辛く苦しい昂ぶりに苛まれ、
何度も何度も寝返りを打ってるとイイナ。



サヨナラしても、デイトは続いてる。


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